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- 食生活と身体の退化
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- 「食生活と身体の退化」との出会い
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- プライス著『食生活と身体の退化』の翻訳をめぐって
- 『食生活と身体の退化』を出版した本当の意味とは?
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食生活と健康
Part 1
このページは、
W.A.プライス著「食生活と身体の退化」、G.E.マイニー著「虫歯から始まる全身の病気」
及びプライス・ポッテンガー栄養財団(PPNF)
に関連した記事を掲載しています
食生活と身体の退化
ー 歯科臨床を通しての健康作りのために ー
片 山 恒 夫
はじめに
私たちは健康でいるときは、病気のこと、病人のことなどをほとんど考えない。病気になると、ある日突然に病気に取り憑かれたと思い、健康のありがたさを感じる。幸いに回復すれば、喉元すぎれば何とやらで、苦痛も悩みもやがて忘れ、同時に健康のありがたさも感じなくなってしまう。そうして、それが繰り返された時には、不治の大病を患う。
歯科疾患治療の現状
歯科疾患の主なものは、ムシ歯と歯槽膿漏(歯牙う蝕症と歯周疾患)で、ムシ歯はどのように治療しても元のようには戻らないし、歯槽膿漏も治療したからといってやせ細った顎の骨が若い頃と同じようにまで治癒することはない。治療はただ病状を食いとめ、人工の修復物を装置して噛めるようにし、また外貌を元に戻す、ということにすぎない。人工的に装置された修復補綴物は、使えば損耗する。そこでまた、やり直しとか修理が必要となる。このようにして老若男女の別なく、国民全員が一生の間、繰り返しこのような医療を受けている。そして、その費用は年々総医療費の約1割、実は2割近く、2兆円ほども費やされ、数年後には倍増する、という予想がたびたび発表されている。
さほど難病でもない歯科疾患の治療について、今日ほど取り沙汰されたことはなかったであろう。歯科疾患はまさに国民病といえるほどの一般的病気で、また再々これに悩まされるということは、大方、誰もが体験から承知している。
子育て中の乳歯の治療、思春期の歯列不正矯正治療の問題、中高年齢層の歯周病(歯槽膿漏)治療の問題、老人の義歯の問題、どれもが診療拒否、 高額自己負担などの形で問題化しているだけでなく、案に相違しての短時日の破損、再発からの医療内容に対する疑問、不満が解消されず、訴訟問題にまで発展してきている。最近の新聞報道では、歯の治療が思わしくなく、子供にも同様な病気が進んで家庭のトラブルと重なり、それを苦にして幼い子供2人を道連れに、若い主婦が心中を遂げたという事件が報道された。何故、はかばかしく良くならないのか、また再々次第に悪くなるのか、それも相当長期間の治療の結果、またその場所だけでなく、その近隣の歯が、歯ぐきが悪くなってくるのか。完全な治療、再発防止、予防が強く望まれている。
ムシ歯は、まず1歳で12%、2歳で47%、3歳 で87%の子どもに乳歯う蝕として発症、年々増加しているが、全身麻酔のもとでも、完全治療、再発防止は望めない。
開業臨床の現状では疾病の増加に対応できず、治療処置はできるだけ短時問に済まされ、人間関係は没却され極端に損われている。国民こぞって歯科医の急増を望んでいる。このような現状の中で乳歯の健康は、歯の一生の中で最も重要でありながら、その治療は痛み止めだけで放置されている。
予防は、躾(しつけ)でするしかない。しかし、 多くの若い母親は、躾ける努力を続けられるほどに乳歯の健康の重要さに理解をもたず、健康生活についての他の躾、排便、入浴、洗顔、着替えなどに比べほとんど行なわれていない。そのうえ治療の場での予防についての話し合いには、たとえ経済の問題を度外視して努力してみたとしても、 待ちどおしい多くの患者からは無用のことと排斥されさえもする。
しかし、開業臨床の場での出会いは、治療の場としてだけではなく、再発防止、予防について理解を深め、実際活動を身につける唯一の場であるととらえることも、必要ではなかろうか。まさに、場違いとまで考えられている臨床の場での、予防についてのあらゆる計らいには、この治療の際に、このたびの治療こそが最良の結果を、そして再び繰り返すことのないように、と願望しているこの治療の機会に、それに答えるにはどうすればよいのかについても知ることができるとしたら、これに勝る場のあるはずはない。 一方、歯科医の側からみても短期間の破損と再発は、理由のいかんにかかわらず、欠陥治療、予防注意の不足、任務怠慢と決めつけられる最も忌まわしいケースである。だから、歯科においては再発予防の問題は、両者にとってまさに共同の重要関心事である。だが、現実には、時間、人手の不足の問題が厚い壁として立ちはだかっている。
治療のための局所的病因の制御 ― プラークコントロール ―
予防は、病因の制御と免疫抵抗力の強化によって達成される。口腔疾患の病因は歯垢(デンタル・プラーク)の異常成熟と停滞のための細菌汚染であり、身体の退化による免疫抵抗力の減弱である。 濃厚・強力な病因の存在のままでの治療処置の成績は不良で、口腔汚染のまま、体力低下のままの治療は、効果不良であるばかりでなく、再発必至であるため無益で無駄であることなど、強い動機のある今、ここでどうにかして、完全に理解してもらえる方法はないか。それは時間のかかるお説教ではなく、自分の今がまさしくその通りであることを、気づかせることにあるのではなかろうか。
筆者は昭和23年、保健所法改正と同時に、保健 所口腔衛生係として、来所妊産婦に対する口腔術生指導の方法を模索して悩み、ほんの僅かの割り当て時間の中で、本人の口腔から採取した歯垢を単染色、懸滴、暗視野の方法でその内容が生菌叢であることを認知させ、歯垢を染色顕示することによって、その停滞の量と範囲を確認させる方法を考え、実行してきた。
その後、これらの方法を一層改良し、約10年前 から位相差顕微鏡にテレビカメラを接続し、モニターする改良方法で時間を短縮し確実に認知できる方法として、現在用いている。これによって、情緒的・感動的に与え得た認知、認識は、病因除去の適正な療養行動への強力なバネとなる。
患者の治療参加意識が家庭生活での健康作りとして定着する
局所病因の除去、すなわち歯垢(デンタル・プラーク)の制御を適正に励行できる方法を解答することから始まる病因除去(プラークコントロール)の指導は、適正な方法、技術の指導だけではなく、病因除去が患者自身の役割で、それによって自分も治療へ分担参加すると認識させ、治療効果の責任を共有することを理解させる方法ともなる。
治療に最も役立つ病因の除去は、患者自身が適正な方法を確実に励行することによってのみ遂行される。したがって、望まれる効果的な治療は、患者と治療者、両者の努力と協力を必要とすることの理解、言いかえると、患者自身の原因除去についての役割が果たされるのでなければ、治療は片手落ちの不十分な結果となることについての理解が、療養の励行を動機づけ、健康指導の第一歩として始められる。治療の効果を高め、その良好な結果を長く存続させ、再発を防止させるための最初から最後まで、患者自身によって病因の除去が徹底的に行なわれる。そのような歯科治療方式は、決してお説教による知識、理解の力によって続けられ、成功するものではなく、ただ患者自身が情緒的感動などによる動機からの行動、その効果としての回復感を体得し、健康への爽快感の確 認によって支えられ、励まされ、続けられることによってのみ成功するもので、最後まで患者自身の続けた療養の方法と治療参加、役割分担の意識は習慣として定着し、治療後も長く養生法、再発 予防法、健康法として、その人だけではなく家庭の新しい健康作り生活様式として家庭生活に組み入れられてゆく。
しかし、この局所病因の除去は、適正なブラッシングなどの確実な励行によって、初めて成し遂げられるものであるため、便利さ、安易さを求めるわれわれの現代生活、特に病気の苦しみも健康の有難さも感じない元気なときには、文明に逆行するような複雑で困難な苦行とさえ考えられる。
回復と再発防止に強い願望をもつ治療の場においてさえも、十分な期間と再指導を通じて実感、 体得を基礎に習慣にまで定着するのを見定めなければならない。それでもなお、この局所的な病因の除去だけでは、全身的免疫抵抗力を高めることにつながらないため、歯と歯肉を芯から丈夫にすることはできない。局所の抵抗力を回復させ強化するには十分でないため、努力の効果がはっきりと体得できない場合もあって、またしても不十分な状態に立ち戻る場合がしばしばである
病因の歯垢除去のむずかしさは、歯垢の性状、食物の性状によっても左右される。口腔常住細菌が蔗糖を利用し、非常に粘着度の高い細菌叢を形づくることから、蔗糖摂取の制限は口腔清掃を容易にまた簡単化する方法でもある。また食生活が、粘着度の高い軟食に過ぎる高温な食事である場合は、歯垢の停滞は非常に顕著であるのに反し、粗で硬く、体温に等しい清浄新鮮な野菜の生食などであるならば、咀嚼により、また口中での食物の流れが、歯表面の細菌叢を削り落とす作用をするために、口腔清掃は非常に簡単で済むことになる。
治療のための全身的病因の制御 ー ダイエットコントロール ー
食事の内容成分が、歯および歯周組織の抵抗力に関係することは、胎生期あるいは生歯期だけにとどまらず、成人後もなお強く関係していることについても、多くの業績が明らかにしている。
真の健康を回復し増進してこそ、局所病因の除去と相まって治療効果を高め、再発を予防することもできるという観点に立てば、進んで食生活改善を計らなければならない。 もともと歯科患者のほとんどは、咀嚼不全から不本意な偏食状態にある。気持よく食べられるように、何でも平気で噛めるように治したい望みは強い。だがそれは、食習慣の見直し改善に向かっての動機とはならない。
食生活改善への動機づけ
痛みを除き、一時的ではあっても機能を(暫間義歯などによって)回復させる救急処置を行ないながら、同時的にできるだけ治療の早期に、口腔 局所の病因を理解させ、患者自身で排除する努力 を援助すると同特に、全身的抵抗力減弱と治療効果の関係、歯や歯肉が弱く、病気にかかりやすい体になる原因、それらがともに食物に関係することの理解を深め、食事改善に導き、具体的方策を示し実行に移らせる。これらの療養の重要性は、 他科においてイニシャルセラピーとして安静を命じ、広く輸液法が用いられているのと同様であるが、歯科臨床の実際では簡単なことではない。
食事指導は、短時日の目覚ましい効果によって励まされることは期待できないし、その実行度を検証することも難しい。したがって、プラークコントロールの指導より一層困難である。その動機づけの方法としては、権威ある本からの抜粋、コピーなどを教材とするしかないが、永らく適当なものがみつからなかった。
数年前からやっと全訳自費出版にこぎつけた W.A.プライスの『食生活と身体の退化』ほどに、 適切で有効な図書はなかった。
W.A.プライス著『食生活と身体の退化』
W.A.プライスは、多くの研究業績、著書を残しているが、予防にはどうしても健康を積極的に導き出す方策を見つけ出さねばならない。プライスは、そのためには現に健康な人たち、部族、種族を探し出し、それらのよって来たる諸条件、特に食生活を調べることと、それら諸部族が近代文明に接し文明食を摂るようになると、どのように弱体化、悪化した状態になるかを調べることこそが適切な方法と考え、つまり、予防には適正な食習慣の確立が不可欠であるとして、正しい食習慣 の在り方を探究するための前人未踏の人類学的なフィールドワークを行ない、北極圏、アフリカ大陸、南・北アメリカなど世界各地の14の未開種族の食習慣について口腔の実態を記録しつつ、各種族の生活実態をドキュメントしながら診査を行 なった。
23万キロの調査旅行での間、収集・整理された 3千枚の写真、あるいはまた、高栄養人工配合飼料による家畜の実験による同様な変化、あるいは人に見られない恐ろしい奇形などについて述べている。またさらに、それらの奇形、変形は遺伝ではないこと、つまり、そのような奇形の家畜を元の自然正常な飼料に戻した場合、すべて正常な仔が生まれるということ、また食品のどのような要素によるものかも調べている。この膨大なフィールドワークと実験から引き出された結論は、食習慣、食餌内容が、歯科に関しては、歯と歯列を悪くする主因であるということであって、弱くできた歯や不正に形づくられた顎形、歯列弓を身体の退化、劣悪化の指標ととらえ、これらは遺伝でもなく完全に予防し得ることを力説している。「どのような健全な部族も現代文明食の影響を受けた とたんに、たちまち純血の同一部族内において顔の骨格と歯列弓に変化が起ることによって、かねがねが『遺伝的』と解釈していた変化、ないし劣悪化は、遺伝が『干渉により混乱せしめられた』 結果であることを白日のもとに引き出した」という当時の『ボストン科学年報』評のごとく、また 歯科界では『米国歯科医師会誌』に「公にされた歯科文献の最も卓越した書物の一つ、歯科医たるものすべての必読書」とまで称賛されている。
真の“健康作り”の基本となる食生活の見直し、改善への動機づけの媒体として取り上げるには、 全くうってつけの書であるが、540ページの大著であり、一気に通読することは患者にとっては容易とは言えない。しかし今、その人に最も適切と思われる数ページを指定して読んでもらうよう貸し出す方法で、156葉の現場集録の説明写真、実験結果グラフなどを一瞥するだけでも、その大意を感動的に伝えられ、時間もかからず、人手も取らず感銘を与えることができ、したがって食生活改善の具体的問題もおのずと次第に解決される。
このような患者の生活の中にある疾病原因を、治療の基本的原因除去療法→患者の療養とし、治療参加の意識の中で完全治療の共同責任として、 分担努力する治療の体制は、歯科疾患治療の中でも、特に成人期の歯周疾患早期治療、再発防止に最も必要不可欠とされている治療体制である。
歯周疾患は歯肉炎から始まり、歯槽膿漏による歯牙の脱落に終わる、非常に長期にわたる慢性進行性の疾患であって、わが国成人の90%以上が罹患している疾患である。歯肉炎は、思春期の頃に最も顕著に発現してから、次第に悪化する。したがって、乳幼児を除く歯科治療のあらゆる時期に、この治療体制に入ることが必要であって、一般に広く理解され行なわれてきている。
また、局所麻酔による無痛治療中の事故防止のために行なわれている血圧測定、尿検査は、多くの無自覚の高血圧、糖尿病患者を発見し、内科治療とともに、歯科疾患治療の療養として局所原因の歯垢制御(プラークコントロール)と並行して、全身的病因の食事制御(ダイエットコント ロール)、すなわち食品の配分、噛む回数を正すことによる摂取量の制限を土台にした食習慣の改善は、役割分担治療参加の自覚によって中断されることなく実行されている。この状況については、 アメリカにおいても現今、一般に定着したと、タフツ大学長 J.メイヤー氏によって、1977年2月『ジャパン・タイムス・ウィークリー』で報道されているように、歯科治療のためにという理由で多くの無自覚患者が発見され、コントロールの中断もなく、習慣として定着、各科の信頼と称賛を得ているという記事からも、うかがえる通りである。
このような歯科治療の際に行なう原因除去の指導は、療養として励行され、その効果が明瞭かつ爽快に健康に向かう実感として自覚、体得されて自信を生み、つぎつぎの課題に対しての跳躍台に育ち、自分に向けての自分だけの役割が果たされてゆく。そのような新しい生活態度は、治療の期間だけでなく、その後の生涯の生活に予防的生活として、食習慣は改善され、健康作りに結実し、 結果として再発は防止され、あらゆる疾病の初発は予防される。
このような治療方式こそ、健康作り運動の真の意味とその進め方を体得した、家庭内外の指導者の養成方式ともいえる。また、各科診療の基礎診療科としての、歯科、口腔、咀嚼科?のあり方が位置づけられ、このような治療方式によって初めて治療の順調な進展と満足な終了、再発のない良好な結果の永続が得られ、その結果として主治医は、上手、名医と称賛、信頼で大きく報いられる。
いまやこのような新しい予防と治療の合体、全人的ともいうべき総合的生科医療体制は、次第に広がりつつある。
一方、このような治療体制を理解するための、社会の現状を踏まえた医療理念、生のエコロジー・社会性・技術の位置づけなどについての研修が、 実例による治療、指導の進め方とその効果についての発表提示とともに、広く望まれていることも現状である。
本年5月、政令改正により健康作り指導要員の意味をも含め、保健所歯科医、歯科衛生士の増員配置が示された。やがて新しい要員に対して執務要領講習が行なわれるであろうが、是非以上に述べたような歯科医療を理解、援助、推進できる講習であることを希望すると同時に、一般にも是非公開し、心ある臨床家に道を開いて自費受講させ、保健所活動と連帯の絆を作るべきであることを提案したい。
おわりに
無病息災はたしかにありがたい。しかし、それ は本当にありがたい。たいしたことのない病気で気をつけてさえいれば、そのままか、少しずつよくなる病気とともどもの暮らし、そのうちに自分の医学を知ることができ、健康作り運動を人々と進める暮らし。
「口腔の健康」を健康すべての指標ととらえ、すべて十分に噛みしめながら、取り入れる暮らし、そのような、せめて一病息災で過ごしたい。
公衆衛生 Vol. 43 No8 1979年8月
ジョージ・E・マイニー博士(歯科医師)へのインタビュー
PPNF財団機関紙「HEALTH & HEALING WISDOM」2007年 春号 vol.31 N0.1 より転載
編集部注:このインタビュー記事は、会報《Mastering Food Allergies》 (食物アレルギーの克服) 1994年1・2月号(第77巻)に初めて掲載されたもの。マイニー博士はすでに現役を退き、現在は執筆活動を続けているが、PPNFの創立理事会メンバーの一人である。博士の許可を得てここに転載。
聞き手:マージョリー・ハート・ジョーンズ(登録看護師)
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マイニー博士は歯の根管治療に潜む危険性を公にするにあたって、きわめて微妙な立場に立っている。50年前には、米国歯内療法協会(根管治療の専門家たち)の創立メンバーの一人だったのだから! つまり、膨大な数の根管治療を手がけてきた。そして、根管の充填をしていない時は、週末のセミナーや臨床講義の場で全米の歯科医の 技術指導に当たってきた。
約2年前、引退したばかりの博士は、ウェスト ン・A・プライス博士(歯科医師)の研究を詳細に述べた1174ページの本を読破しようと決心した。 驚愕と衝撃に襲われた。そこに収められていたのは、充填が施された根管に潜む潜在的感染から生じる全身性疾患についての、信頼に足る記録であった。博士はその後、「Root Canal Cover-Up」を 執筆し、現在は、一般の人々に警鐘を鳴らすために、ラジオやテレビに出演したり、さまざまな集まりに顔を出したりしている。
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MJ:根管治療にはどんな問題点があるのか説明してください。
GM:最初にお断わりしておきますが、わたしの本は、ウェストン・プライス博士の25年にわたる綿密で非の打ちどころのない研究を土台にしたものです。博士は60名のチームを率いて研究を進め、その研究結果は ーこれまで公表を禁じられてきましたがー 史上最高の医学的発見としてランクされるべきものとなりました。重い病気を引き起こす発見困難な病原体を長期間にわたって探し求めるというような、よくある医学研究の話ではありません。何百万もの細菌がいかにして歯の構造内部に潜入し、単独の病原体に起因するものとし ては最大数の病気をもたらす結果となるかについて、述べたものなのです。
MJ:どのような病気でしょう。いくつか例を挙げていただけますか。
GM:はい、慢性退行性疾患のうち、かなりの割合が、根管充填の施された歯から生じているといえましょう。
もっとも多いのが心臓・循環器系の病気で、プライス博士はそれらを引き起こす病原体を16種類も発見しました。次によく見受けられるのが、関節炎やリューマチといった関節の病気です。3番目は ーといっても、2番目とほぼ同数ですがー 脳と神経系の病気です。4番目以下も同じで、名前を挙げることのできるどのような病気も、根管充填の施された歯から生じる可能性があります(そして、一部の症例では、現実にそうなっています)。
研究そのものについてお話ししておきましょう。プライス博士は1900年に研究に着手しました。 研究は1925年まで続けられ、1923年にはその成果を2巻本にして出版しました。1915年、全国歯科医師会(数年後に米国歯科医師会に改称)が博士の業績に大きな感銘を受け、プライス博士を初代リサーチ・ディレクターに任命しました。博士の諮問委員会はまるで当時の医学会と歯科学会 の紳士録のようです。細菌学、病理学、リューマチ病学、外科、化学、心臓病学の分野を代表する錚々たる人材がそろっていたのです。
著書のなかで、プライス博士はこう述べていま す。「連鎖球菌による病巣感染が全身に及ぼす影響の深刻さにいち早く気づいていた点で、おそらく、フランク・ビリングズ医学博士がアメリカの他のいかなる内科医よりも大きな賞賛を受けるべきでしょう」
ここでじつに不幸なのは、病巣感染学説を信じない、もしくは、理解しきれない少数の独裁的な医師グループによって、約70年前にきわめて貴重な情報のもみ消しが図られ、完全に隠蔽されてしまったということです。
MJ:“病巣感染”学説とはどのようなものですか。
GM:原感染病巣 ー歯、歯根、炎症を起こした歯周組織、扁桃などー に潜む細菌が、心臓、眼球、肺、腎臓、その他の臓器、腺、組織へ移動して、同じ感染を伴う新たな二次疾患を作りだすという説です。単なる学説ではなくなり、何度も立証され、論証されてきました。現在では、100パー セント受け入れられています。
しかし、第一次大戦中と1920年代の初めのころは、革命的な考え方だったのです!
今日、患者も医師も“洗脳”されて、今の世の中には抗生物質があるから感染症は昔ほど深刻な問題ではなくなった、と考えるようになっています。まあ、イエスともいえるし、ノーともいえるでしょう。根管充填が施された歯は、もはや生きている歯ではないため、内部への血液の供給が断たれています。従って、抗生物質が血液内を循環しても、歯の内部にまでは到達しえないため、そこに生息する細菌を死滅させることができないのです。
MJ:根管充填の施された歯のすべてに、細菌と他の感染病原体が、もしくは、そのどちらかが潜んでいると、先生はお考えなのでしょうか。
GM:そうです。
どのような充填剤もしくは技術を使おうとも ーこの点は現代でも変わっていま せんがー 充填された部分はたぶん、顕微鏡的な比率でしょうがわずかに縮みます。
また、ここからが大切なことですが、堅固に見える歯の多くを占める象牙質と呼ばれる部分は、実際には、何マイルにも及ぶ細管によって構成されています。迷路のような細管内に潜む微生物が歯の内部を移勤して、そこに棲みつきます。充填が施された根管は新たな繁殖地を作る場所として好まれているようです。
この事実を理解しにくくしている要因のひとつとして、次の事実が挙げられます ー 口腔内に常住する比較的無害な大型の細菌が変化して、新しい環境に適応するのです。窮屈な棲み家に合うようにサイズを縮小し、さらに、ごくわずかな食物だけで生存することを(そして、繁栄することを!) 学びます。酸素を必要とする細菌が突然変異を起こして、酸素なしでも生きていけるようになります。こうした適応過程のなかで、以前は友好的だった“正常な”微生物が病原性(病気を引き起こす能力)と毒性(より強力なもの)持つようになり、はるかに強い毒素を放出するようになるのです。
今日の細菌学者たちは、プライス博士の研究チー ムの細菌学者による発見を正式に認めています。どちらの学者たちも、根管から、同じ種類の連鎖球菌、ブドウ球菌、スピロヘータを検出しています。
MJ:根管治療を受けたことのある人は、誰もがそれによって病気になるわけですか。
GM:いいえ。あらゆる根管充填にはすきまからの漏れが見受けられ、細菌がその構造に侵入することを、我々は現在、確信していますが、そこには個人の免疫系の強さという変動要素が介在します。健康な人間であれば、歯から抜け出して身体の他の場所へ移動した細菌を抑制することができます。なぜそういう現象が起きるかというと、たぶん、免疫系のリンパ球(白血球の一種)や病気と戦う因子がそれ以外の慢性的な病気によって弱められていると言うことが無く安定しているからでしょう。言い換えれば、健康な人々は、体内の他の組織が新たな病巣に支配されるのを食い止めることができるのです。
しかし、歳月がたつにつれて、根管充填された歯を持つ人々の大部分が、以前にはなかったなんらかの全身症状を見せはじめるようです。
MJ:硬くて頑丈そうな歯の構造の奥深くに細菌が入りこむということが、どうも理解しにくいのですが。
GM:そうですね。医師や歯科医も理解しがたいと思っています。歯の構造を思い浮かべてもらう必要があります − 象牙質を構成している顕微鏡でしか見られないほど細い管のすべてを思い描いてみて下さい。健康な歯の場合は、この細管のなかを液体が循環して、歯の内部へ栄養物質を運びます。わかりやすく説明するなら、単根歯(前歯) の細管を地面の上で延ばすと、3マイルもの長さになるのです!
根管充填が施されれば、もはや歯のなかを液体が循環することはありませんが、迷路のような細管は残ったままです。だからそこに生息する嫌気性細菌は、抗生物質からきわめて安全に守られているわけです。
しかし周囲の組織へ移勤し、そこから血流に乗って体内のほかの場所へヒッチハイクすることができます。細菌が新たに棲みつく先としては、あらゆる臓器、腺、組織が考えられ、その新たな繁殖地が、再発性もしくは慢性の感染症に悩まされている人体のなかで次の二次疾患としての感染を引起すのです。
感染に対する患者の抵抗力を高めて、免疫系を強くしようという意図のもとに行われる“強化策” は、どれも一時しのぎにすぎません。感染源 − 根管充填が施された歯 − を除去しない限り、多くの患者は健康になれないのです。
MJ:先生のお話を疑うわけではありませんが、 関節炎その他の全身症状や疾患がじつは歯から − それも、たった1本の歯から − 生じるということを、プライス博士がいかにして確信するに至ったかについて、もうすこし説明していただけませんか。
GM:いいですよ。研究の多くは、研究者が何らかの現象に好奇心を持つことから始まります。次に、科学的な配慮のもとに解答を見つけだし、それから、何度も実験を繰り返してそれを立証していくのです。プライス博士が手がけた最初の症例はくわしく記録されています。博士はひどい関節炎に苦しんでいた女性から、感染を起こしている歯を抜きました。抜歯がすむとすぐに、その歯を健康なウサギの皮下に埋めこみました。48時間以内に、ウサギは関節炎になって四肢を勤かせなくなりました!
さらに、抜歯後、患者さんの関節炎は劇的によくなりました。この事実が患者さんの場合も、ウサギの場合も、感染した歯が関節炎の元凶であったことを明確に示しています。
(編集部注/ここで、その最初の患者にまつわる話をマイニー博士の著書から引用しよう)
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プライス博士は、根管治療が或功したように見える時でも、充填が施された菌は感染したままではないだろうかという疑いを持っていた。その考えは博士の脳裡を離れ図、医師も途方に暮れるような重病患者が診察を受けに来るたびにこの考えがつきまとった。そんなある日、ひどい関節炎のために6年前から車椅子生活を余儀なくされていた女性の治療中に、ふと、ある研究のことを思い出した − それは、ある病気の患者から採取した 細菌を培養してその培養細菌を動物に接種して、患者と同じ病気をその動物に起こさせ、病気の治療薬の有効性を試験するという研究であった。
それを念頭に置いたうえで、根管充填が施された患者の菌はなんの問題もなさそうに見えたにもかかわらず、博士はその関節炎の患者に抜歯を勧めた。「根管充填されたこの菌のどこにあなたの苦しみの原因があるのかを突き止めたい」と、彼女に伝えたのである。
悪い歯を抜けば関節炎やその他の病気がすっかりよくなる場合があることは、どんな歯科医でも知っている。しかしながら、この患者の場合はどの歯にも問題がなさそうだったし、根管充填が施された歯にも感染の症状はいっさい認められなかった。また、レントゲン写真を見るかぎりでも、この歯は正常の範囲内にあると思われた。
プライス博士は抜歯がすむとすぐに患者を帰して、その歯をウサギの皮下に埋めこんだ。2日後にウサギは患者と同じく関節炎になって四肢が動かなくなり、10日後には死んでしまった。
患者のほうは、抜歯後、すばらしい回復を見せた! その後、杖なしで歩けるようになり、ふたたび細かい刺繍までできるようになった。この好結果によって、プライス博士は、さまざまな治療を受けても病気がよくならない他の患者たちにも、根管充填が施された歯を抜くことを勧めるようになった。
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プライス博士はその後何年かにわたって、この実験を何百回も繰り返しました。のちには歯の小片を埋め込んで、同じ結果になるかどうか調べてみました。結果は同じでした。次に、歯を乾燥させ、すりつぶして粉末にし、微量の粉末を数羽のウサギに接種しました。結果は同じで、今回は複数のウサギに同じ症状が起きたのです。
プライス博士はやがて、細菌を培養して、それをウサギに注射するようになりました。その後さらに一歩進んで、細菌が除去できるほど細かい濾過器に、細菌入りの溶液を通しました。つまり、 濾過後の液体を注射する段階では、感染源となる細菌は存在しないわけです。実験用のウサギは病気になったでしょうか。そう、なったのです。
この現象を説明するには、細菌から出た毒素が液体中に含まれていて、その毒素にもやはり病気を引き起こす力があったのだと考えるしかありません。
プライス博士は、細菌と毒素のどちらがより強力な感染源であるかということに好奇心を持つようになりました。いま述べた実験を繰り返して、 半数のウサギに毒素入りの液体を、あとの半数には濾過された細菌を注射しました。どちらのグルー プも病気を発症しましたが、細菌を注射されたグループより、毒素を注射されたグループのほうが重い症状を示し、死亡するのも早いという結果が出ました。
MJ:それは驚きですね。ウサギはつねに患者と同じ病気になったんですか。
GM:ほとんどの場合がそうです。患者が心臓病を患っていれば、ウサギも心臓病になりました。患者が腎臓病なら、ウサギも腎臓病になりました。 ごく稀に、ウサギが別の病気を発症することもありましたが、その場合も、病状はほぼ同じで、発症した部位に違いがあるだけでした。
MJ:ここで話を前にもどして、口腔の健康について伺いたいのですが − 抜歯の必要を阻止するために。治療の必要な根管よりも、虫歯や炎症を起こした歯くきのほうがはるかに多く見受けられるように思います。それも健康を脅かすのでしょうか。
GM:はい、間違いなくそうです。
しかし、ここで指摘しておきたいのですが、全身の健康を抜きにして口腔の健康だけを語ることはできません。厄介なのは、虫歯が全身性疾患を反映するものであるという事実を、患者も歯科医もいまだ認識するに至っていないことです。歯科医が歯をみごとに修復できるようになったため、歯科医も、患者も、虫歯を些細な問題だと思うようになっています。本当は違うのです。
小さな虫歯の穴は、多くの場合、大きな穴になっていきます。大きな穴は、多くの場合、さらなる破壊につながり、最終的には根管治療が必要となります。
MJ:では、その予防法について教えてください。
GM:虫歯を防ぐ唯一の科学的方法は、食生活と栄養に気をつけることです。ラルフ・スタインマン博士がロマリンダ大学で画期的な研究をおこないました。ブドウ糖溶液をマウスに注射したので す − 腹部に直接 − 故に、ブドウ糖はマウスの歯に触れもしなかったわけです。博士は次に、歯に何か変化が生じないかと観察をしました。そこで発見されたのは、驚愕すべきことでした。ブドウ糖が象牙細管内の液体の流れを逆転させ、その結果、実験動物のすべてが重度の虫歯になってしまったのです!
わたしが先ほど申しあげたことを − つまり、虫歯は全身の病気を反映するものであるということを − スタインマン博士が劇的に立証したわけです。
どうしてこのようなことが起きるかを、くわしく見ていきましょう。歯が細菌に感染して虫歯の穴が神経や血管に達すると、細菌は象牙細管に入りこみます。そうなってしまうと、歯科医がいくらがんばって治療をしても、全長何マイルもの細管のなかに潜伏する細菌を完全に死滅させることはできないのです。
細菌はやがて、根管の側枝を通り抜けて、歯を支えている周囲の歯槽骨のなかへ移動できるようになります。患者はいまや、虫歯の穴と、それに加えて、歯の支えとなっている組織の潜在的感染に対処しなくてはならないばかりか、細菌によって強力な毒素を全身に送りこまれてもいるのです。こうした毒素が体内を循環して、免疫系の活動を引き起こし、そのせいで患者はたぶん、不快感を覚えるようになるはずです。患者側のこうした反応は、動作が緩慢になり、なんだか元気がなくなってきたと感じる程度のものから、ほぼあらゆる種類の歴然たる病気まで、さまざまです。もちろん、こうした人は体内に入りこんだ細菌に対する抵抗力があまりありません。なぜなら、その身体はすでに絶えざる攻撃にさらされていて、感染源、もしくは毒素、もしくはその両方によって、免疫系が“フル稼働”を続けているからです。
(MJ:ぞっとするお話ですね。さきほどおっしゃっ た予防栄養学について、もうすこし説明していただけませんか。
GM:わかりました。プライス博士は世界中をまわって、昔ながらの暮らしを続ける未開の人々を対象に研究をおこないました(編集部注/プライ ス博士著『Nutrition and Physical Degeneration (食生活と身体の退化)』参照)。世界のあちこちで、文明から隔絶した場所を14ヵ所見つけだしたのです。そこでは、原住民が文明とまったく接触を持たず、精製された食品をいっさい口にしていませんでした。
プライス博士は彼らの食生活を丹念に調べました。その結果、食生活の内容は地域ごとに大きく異なっているが、ひとつだけ共通しているのは、精製されていない全体食品を摂っている点である、ということが判明したのです。歯ブラシも、デンタルフロスも、フッ素を添加した水も、練り歯磨きもないのに、研究対象となった原住民は、虫歯とほぼ100%無縁でした。
しかも − それと関連がなくはないのですが − 我々を噛ませているあらゆる退行性疾患とも、ほぼ100%無縁でした − 心臓、肺、腎臓、肝臓、関節、皮膚(アレルギー) の問題、そして、人類を苦しめている病気のすべてと無縁だったのです。
病気を予防できる魔法の食物だと証明された食べものは、ひとつもありません。広範囲にわたる全体食品を食べることによって、最高に生き生きと暮らせるのだと、わたしは信じています。
MJ:すばらしいことです。では、口腔(および全身)の健康に役立つ”食生活と栄養”というのは、つまり、全体食品という基本的な食物を摂ることを意味しているわけですね。
GM:そのとおり。そして、砂糖と精白小麦粉は摂らないこと。
この2つの食品が最大の犯人なのです。悲劇的なことに、原住民が砂糖と精白小麦粉を摂るようになってから、きわめて高かった彼らの健康水準は急速に低下してしまいました。これは再三再四実証されてきたことです。
この60年以上にわたって、われわれは、高度に精製加工されたシリアル、あらゆる種類の箱入りミックス食品、ソフトドリンク、精製植物油、膨大な数の食品とは呼べない“食品”を、ますます大量に摂るようになってきました。
また、その同じ年月のなかで、全国的にますます多くの根管充填が施されるようになり、退行性疾患が蔓延してきています。時期を同じくするこれらの要素は断じて偶然ではないと、わたしは信じています。そして、もちろん、プライス博士も、わたしが満足できる証明をしておられます。
MJ:先生がおっしゃることは、たしかに理解できます。でも、口腔衛生を力説しない歯医者さんと話をするというのが、わたしにはいささかショックなのですが。
GM:いやいや、わたしは何も口腔衛生を否定しているわけではありません。もちろん、口のなかを清潔に保つことは虫歯予防になりますし、我々の“文明化された精製食品の破壊的な影響を最小限に抑えることができます。
しかし、本当の問題はやはり食生活にあるのです。プライス博士が見つけだして調査をおこなった原住民たちが、虫歯や、歯ぐきの炎症や、退行性疾患と無縁だったのは、彼らがよりすぐれた品質の歯ブラシを持っていたからではありません!
プライス博士が発見したことの重大さを忘れてしまうのは、きわめて簡単なことです。
ともすれば、それを見過ごしてしまいがちです。歯磨きをもっと丁寧に、長時間かけて、あるいは、もっと頻繁におこなえば、歯の悩みから解放されるだろうという意見を聞くほうが、みんな、本当は好きなのです。
もちろん、わたしが本を書いた目的のひとつは、 歯科の研究に刺激を与えて、象牙細管を滅菌する方法を見つけてもらうことにあります。そのとき初めて、歯科医は歯を生涯にわたって残せるようになるのです。
しかし、最終的な結論は以前と同じです。精製されていない全体食品を摂るという原始的な食生活こそが、虫歯と退行性疾患の両方を実際に予防するための、これまでに発見された唯一の方法なのです。
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訳者紹介 山本やよい氏
同志社人学卒。サラ・ パレッキーのヴィク・シ リーズの他、『漂う殺人 鬼』『殺人作家同盟』ラヴゼイ、『書斎の死体』 クリスティー(以上早川書房)、『ただ忘れられな くて』バログ(ヴィレッ ジビックス)、『ノー・セ カンドチャンス』『イノセント』コーベン、『死者 の季節』ヒューソン(以上ランダムハウス講談社) など訳書多数。最近では『生け賢たちの狂宴』テヴィッド・ヒューソン(ランダムハウス講談社) 2007年4月1日発行。
編集部注:マイニー博士は、残念ながら、2008年 5月2日93歳でご逝去されました。ここに謹んで哀悼の意を表わします。このインタビュー記事は、博士の『Root Canal Cover-Up』翻訳出版記念フォーラム開催にあたり、2008 恒志会会報 Vol.3にも再掲載してあります。
「食生活と身体の退化」との出会い
山田 勝巳 :千葉県富里市 自然農園主
2003年頃私は有機農業の有用性や採算性を何らかの形でマクロ的な視点から表せないものだろうかと色々と調査していました。
2000年から有機農業研究会の科学部を前任者から引き継ぎ、農業のかたわらその活動の中心だった遺伝子組み換え作物の本質を明らかにし会員に伝える活動をしていました。
そんな中で、遺伝子組み換えに対する強い懸念が出てきていたと同時に、そうした方向性を辿らざるを得ない現行の農法や発想、社会システムに対する疑念も湧き上がってきていました。
当時、一般的有機農業からもう一つの有機農業、自然農という不耕起栽培へ全面転換して間もない頃で、作物は殆ど取れず、さまざまな試行錯誤の最中でもありました。
不耕起に切替えて多少とも農作物が収穫できるようになったのは4年後で、8年経つ現在では12軒の家庭に毎週供給できるところまで生産力が上がってきています。
年々豊かになってきており、生産力は今後も増え続けるように感じています。
この農法の優れた点は、耕さないこと、従ってトラクターや管理機などを必要としないこと、堆肥を大量投入しなくでもよいこと(最近ではほとんど投入の必要がない)、従って大量に有機物を外部から持込み、醗酵させるために切り替えしたりする機械などの必要がない。
必要な道具は、草刈鎌と立ち鎌の二種類で、土地さえあればほとんど初期費用が要りません。
課題といえば、生産力がつくまでの期間が長いこと、抑草作業が多い事くらいか?課題はいずれ克服できるし、地球環境にも人の健康にも社会構成にも現在最良の農法であることは間違いないのではと思ってます。
遺伝子組み換え反対運動は、当時大きなうねりとして日本中に活動の輪が広がり、盛り上がりを見せていた一方で、その根本的解決策である有機農業に対する意識は活動家たちの間で低く、有機農業をやろうとか有機農産物へ転換しよう、「遺伝子組み換えは有機農業で解決しよう」という動きは出てきませんでした。取り敢えず降りかかる火の粉である組み換え作物の栽培阻止、食べるのを止めようという運動でした。
自給率40%という外国農産物への依存体質はそのままで、嫌なものは作るなと海外の生産者に注文を付ける活動は、私には自分勝手に映っていました。
生産効率、経済効率、利潤追求という構造の中で喘ぐそうした生産者もみな、嫌でも売れるもの、生産費を安く抑えられる方法を取らざるを得ない状況はそのままにして、何を作れ、何を作るなという注文だけを出す目先の運動に思えました。
そうした反対活動に時間を割くよりも、根本的解決策である有機農業の普及と自給、そして有機社会の実現にこそ力を注ぐべきではないのかという思いが次第に強くなり、有機的に栽培した農産物の健康への貢献を証明したい、それをはっきり示した研究や論文をないものかと物色していました。
プライス博士の本を紹介した文章をインターネット上で目にして早速取り寄せて読んでみました。
当時、W.A.プライスという一人の歯科医が、世界中の虫歯のない人を訪ね歩き調査した内容は圧巻でした。
そうした健康な現地人たちもひとたび文明食と言われる、砂糖、精白小麦、缶詰、ジャム、それらを便った加工食品などの商業食品を口にすると、たちまち口や全身にさまざまな障害を惹き起すことが克明に記録されていました。
これは是非とも日本に紹介しなければと思い、PPNFに翻訳出版したいと申しいれたところ既に日本語になっていると聞き、これも早速取り寄せてみました。
このとき初めて豊歯会と「片山恒夫」さんという歯科医を知りました。
そして、こういう本(歯科医の立場から食べ物の重要性を証明している)を「歯科医」が日本語にして出していることに感動し、是非会って見たいと思い、関東の歯科医たちが片山先生のところへ定例会議に出かけるというので便乗させていただきました。
折りしも、カナダのパーシー・シュマイザーという農家がモンサントに遺伝子組み換えの特許種子を違法栽培したとして訴えられ裁判をしていて、その人を取材に行こうという話が持ち上がっていましたので、私はその帰り道 PPNF に立ち寄るうと決めていました。今から振り返るとまるで何かに導かれるような形でことが運んだような感じがします。
当時、片山先生は既に寝たきりの状態でしたが、それでもベッドに起き上がりタバコを燻らしながら2時間近くも色々と話してくださいました。今思えば、相当大変だったのではと案じられます。
その時の内容は、同行された沖先生がテープにとっていらしたが、私はこの偉大な思想家であり実践者である先生の前に緊張していて不覚にもあまり覚えていません。
そのとき、「マイニーさんの『Root Cana1 Cover-Up』も出す予定だが、これは歯科医の啓発向けに出そうと思う」と言われていたので、一般向けにも出して頂きたいものだと思ったのを覚えています。
幸い後継の先生方のご尽力で「虫歯から始まる全身の病気」として一般向けにもしていただけたことは、大変有り難いことだと思っています。この出会いのお陰で、恒志会の素晴らしい先生方にお会いでき、また一員として活動させて頂いていることに大変感謝しています。
この本の教えは、自然が恵んでくれたものをできるだけ加工せずにそのまま採り入れること、地元のものを食べることでしょう。
それに従えば、第一は自給して食べる、または地元の有機又は自然然栽培のものを人手すること、次に加熱調理を最小限にすることとなりましょうか。地球上の200万近い生物種の中で加熱調理するのは人間だけです。
世界人口はプライス当時20億強だったのが現在は68億を越えていて、加熱調理のエネルギー消費も大きく、枯渇が近い化石燃料を思うと生食は貴重な選択肢になると思われます。
それで健康な人が増えるのであれば、人々の関心も単なる食べ物、医療といった視点から、より生命の本質に向かうかもしれないと期待しています。
「食生活と身体の退化」は、今でも我が家を訪れる人には、必ず紹介し、皆さん一様に感動されて行きます。
今般、改訂版と要約版が検討されていることは、とても心強く思うと同時に、是非とも普及に尽力したいと願っています。
そして、いつの日か医療関係者と共同で、そこに書かれた事や「虫歯から始まる全身の病気」を証明し、その根本対策としての有機農業と食指導を中心とした予防医療の普及を実現できたらと願っています。
医食農と環境が一体化して健全な方向へ向かってゆく足がかりにできれば、そうした方向での発展に誠心誠意尽力できれば、と意を新たにしているところです。
米国の歯科医が発見した身土不二
医学ジャーナリスト 堀田 宗路
満州事変が勃発した1931年。米国の歯科医師W.A.プライスは、スイスの高地に暮らす人々の第1回目の調査に出かけた。今では信じがたいことだが、当時スイスには、厳しい自然環境のために文明社会から孤立した環境で暮らし、その土地でできた作物のみを食べて生活している人々がいたのである。プライスはそうした人達と、加工食品・近代農法によって作られた食物を食べた人達の歯と健康とを比較した。
その結果は、実に興味深いものだった。同じスイスでも、近代的な食生活をしている人々からは100%近くの高い確率で虫歯が見つかるのに、孤立した環境で暮らしている人々からは虫歯が見つかる例は極めて少数だった。割合でいうと、100本につき2、3本ほどでしかない。
しかも、驚くべきことは歯を磨くという習慣がないにもかかわらず、歯も歯茎も実に見事で美しかったのである。 また、現地での聞き取り調査でも興味深いことがわかった。若い時に都市で暮らしている間に虫歯になった人が、再び山の生活に戻ると、虫歯の進行が止まってしまうというのだ。
食事の変化が健康に及ぼす影響
このプライスの研究は、スイスの山岳部の人々だけにとどまらず、北部のカナダのエスキモーから、ポリネシア、メラネシア、さらにアフリカの諸民族にまで広がった。プライスは真実を求めて、妻とともに世界の未開な地を自分の足で歩いて回ったのである。それは述べ23万キロにも及ぶ調査旅行だった。
こうしてプライスの得た結論は、どれも同じものだった。歯の病気の原因は、食事にあったのである。
プライスの研究で、さらに注目すべきなのは、伝統的な食生活を守っている人々は、歯が丈夫なだけではなかったことである。
人種や民族、食習慣などに関係なく、その土地で採れた食物で伝統的な食事を守っている人々は「すばらしく健康的」だった、とプライスは言う。
当時、流行っていた結核も見つからない。関節炎もなければ、体の退化も見られない。若々しく、美しかった。そして、何より朗らかで、楽しい生活をしていた。
1939年、プライスの研究は『食生活と身体の退化』として刊行され、米国で大きな反響を呼んだ。その著書は膨大な資料をまとめたもので、たくさんの写真が掲載されている。その比較写真を見るだけでも、いかに食事が体に大きな影響を及ぼすものなのかがわかる。
実は、筆者にこの本のことを教えてくれたのは東京都中央区で開業している歯科医だった。その歯科医はプライスの本に掲載されてある写真を指差して言った。
「同じ兄弟でも食事が違うと、歯も人相もこんなに違ったものになってしまうんです」その写真は、スコットランドの北西にあるヘブリディーズ諸島の一つハリス島の若い兄弟が並んで写っているものだった。その土地で採れた伝統食を食べている兄の歯はきれいで、顔全体が引き締まり、元気そうだった。それに対して、近代食を食べている弟は歯に虫歯が目立つだけでなく、顔が弱々しそうで、溌剌さに欠けていた。筆者はこの写真を見て衝撃を受け、プライスの研究に興味を持つようになった。
歯並びが悪くなった現代人
プライスの研究は、人類にとって貴重な財産である。今や世界の多くの地域で伝統的な食生活が失われており、こうした研究をすることはもはや不可能に近いからだ。
プライスは長い時間と労力を使って、東洋で古くから言われてきた「身土不二」を科学的に証明してくれたのである。身土不二とは、読んで字のごとく、人間は生まれてきた上地と切っても切れない関係がある、という意味である。これを食物でいうと、その土地の人はその土地でできたものを食べよ、ということになる。
プライスの本にも出てくるが、これはかつて当たり前のことだった。生まれ育ったところのものを食べるのが、最も自然であり、体にとっても最も馴染みのいいことなのである。たとえば、今まで食べたことのないものを食べた時、一抹の不安を覚えたことはないだろうか。これは体にとっては、もっと切実な問題だ。未知の食物を食べることは、体にとっては闘いを挑むようなものだからだ。場合によっては、病気を引き起こすきっかけになることもある。
プライスは言う。
「我々が従わなくてはならないのは大自然であって、オーソドックスだと考えられているものではない。多くの未開種族は明らかに、我々近代人よりも自然の語りかけというものを一層よく理解している。 しかしその未開種族さえ、彼らが近代的な食事を採用するやいなや、近代文明のあの忌まわしい害悪を分かちもつことになるのである。私の主張を裏づける資料は膨大にあって、スペースの許す限り本書(『食生活と身体の退化』)にも収めている。採用した写真は、私の手元にある何千枚というネガから選んだものである。写真だけでも多くを語ることができるし、『百聞は一見に如ず』という諺もある](訳・片山恒夫)
プライスの本で驚かされるのは、なんといっても比較写真である。食事によって、顎が細くなり、歯並びが悪くなり、顔が変わってきていることを彼はたくさんの写真で示している。
実は、日本人にもすでにこれと同じことが起きている。柔らかい加工食品ばかり食べている若者達に顎が細い人が目立つ。顎か細いと、正しい位置に歯が生えず、歯並びが悪くなる。ベテランの歯科医に聞くと、昔はこんなことはなかったと言う。これは明らかに体の退化ではないか。
もちろん、その退化は顔にとどまらない。健康そのものを私たちは失いつつある。本連載でも何度も紹介してきたが、私たち日本人は日本人の食事に戻るべきなのである。
欧米では有名な、プライスの『食生活と身体の退化』を日本で初めて訳し、私費を投じて出版されたのは、臨床歯科医として多くの業績を残した故・片山恒夫さんである。プライスの本に興味を持たれた方は、片山さんの志を継いで活動しているNPO法人恒志会(TEL 06-6852-0224)へ問い合わせていただきたい。
「経営者会報」
2009年3月号より転載....................................................................
ほったそうじ
1953年生まれ。中央大学文学部卒。現代医学から漢方・民間療法まで、幅広く健康関連についての記事を中心にまとめているジャーナリスト。
著書に『ここまで進んだ注目の新治療法』『漢方医学の知恵①・②』などがある。プライス著『食生活と身体の退化』の翻訳をめぐって
呉 宏明:恒志会副理事長・大学教授
この翻訳に関わった一人として、私の思いを述べたい。
京都大学教育学部の大学院(日本教育史専攻)に在籍していた頃に、鈴木博信氏を通じて『食生活と身体の退化』を翻訳してくれる人を探すことを依頼された。
一人で訳すにはとても膨大な量であったので、同じ大学院の教育社会学専攻の岩見和彦氏(現在関西大学教授)に相談したところ、同じ専攻の荒木功氏(元仏教大学教授、故人)と3人で訳すことになった。
3人にとって歯科関係の本を翻訳するのは予想外であったが、プライス博士夫妻が世界の未開の部族を訪ねて歯と食生活の関係を調査するという文化人類学的な要素もあり、何とかなるのではないかと考え、翻訳作業に踏み切った。
最初は荒木氏の自宅で、そして色々な会議室を転々とし、また最後の方では、京都山科のホテルで缶詰状態になったこともあった。
最初は1日で原文の1頁から2頁を訳すのがせいぜいであったが、徐々にペースがあがり、章の分担を決め、大体の訳が出来上がった。
そこからがまた大変で、訳語の統一や、適切な専門用語の使用や、わかりやすくまた滑らかな文章にする工夫など、片山先生を始め歯科医の方々の手を借りることになった。
私の記憶では、翻訳を始めてから約10年経って出版が完成したと覚えている。
翻訳に当たっては、私より他の2人の存在が大きいと思うし、岩見氏を通じて、本の帯に当時の国立民族博物館長の梅棹忠夫氏が推薦の言葉を書いてくれたことをとても嬉しく思った。
また、鈴木博信氏は翻訳権を始め全体の折衝をしていただき、鈴木氏の存在は計り知れない。
片山先生がおっしゃっていたことを思い出すと、医学の専門家だけが読むのではなく、一般の人が読んでも楽しめる訳書にしたいという強い希望があった。
また、片山先生からは、翻訳を始めるにあたって、また完成するまでの過程を通じて、歯科や医療の知識、食生活の大事さ、医療の底にある深い哲学・宗教的意味、教育や社会の問題、それから美術や骨董品のことなどを何回も長時間にわたってお話をしていただいた。
このことは私にとって大きな刺激になり、とても貴重な学習をさせていただいた。
また、この本の翻訳がきっかけになり、歯科関係の書物や論文の翻訳を頼まれたり、プライス・ポッテンジャー財団やマイニー博士親子との手紙のやりとりをすることになった。
そして、この一連の頼まれごとが、恒志会翻訳のジョージE・マイニー著『虫歯から始まる全身の病気』の出版に繋がっていったことはとても嬉しいことである。
私は『食生活と身体の退化』を翻訳することによって、片山先生と出会い、また恒志会の副理事にならせていただき、土居先生や理事の先生方と知り合うことができて本当に嬉しく思っている。
『食生活と身体の退化』を出版した本当の意味とは?
医師・NPO法人恒志会常務理事 山口トキ子
37年前、昭和54年1月の『歯界展望』に掲載された片山恒夫先生のインタビュー記事「栄養指導を柱とした歯科治療」を読み返してみた。それは片山先生がプライス博士の原著を完訳され、『食生活と身体の退化』という日本語題で自費出版 されたころに発表された記事であった。
その中にブラッシング指導だけでなく、食べるということに直接かかわりのある歯科医が食生活の指導という任務を受け持つことは非常に合目的であり、それでこそ予防が達成できるというくだりがあった。それは歯科にかかる患者は健康な老若男女だけでなく、内科や外科、産科など全科にわたることから、その食事 指導を行う歯科医は重要な役割を担っているということを意味する。
そして歯が痛くて食べられないから痛みを止めてほしいという患者の願いに対して、なにが 食べられないのかという問いから素直に食べ物の話題に入っていける歯科の仕事 の方が医科よりもやりやすい面があることを示唆している。
そう考えると片山先生は総合病院の院長にふさわしいのは歯科医であるという理想を抱いておられた のではないか。その一歩として言葉だけで人々を納得させるよりも権威ある情報源としてプライス博士の原著を翻訳しそれを読んでもらう、写真だけでも見ても らおうとした片山先生の想いが伝わってくる。
そこには患者が知識を得て改善し たいという気持ちが歯科医を突き動かすことになり、歯科医は『食生活と身体の 退化』という指南書をもとに患者教育を実行するという二つの意味を含んでいるように思う。
この患者と医師が協働し合うことが片山医療の根幹であるが、肛門外科医である私の場合はどうだろう。痔の原因である便秘を改善するための食事指導は当然の使命であるが、患者のモチベーションを維持するための効果的な方 法は?
この難問題はいまだ未解決であるが、この記事を読んでいるとまた改めて取り組んでみなさいという片山先生の声が聞こえてくるような気がしてならない。
W.A.プライス先生の「食生活と身体の退化一未開人の食事と近代食・その影響の
比較研究ー」と、H.フレッチャーさんの「噛む健康法フレッチャイズム」との接点医療法人 市来歯科 理事長 市来 英雄
はじめに
今年の1月に、沖淳恒志会常務理事からの手紙が届きました。
「突然お便りする失礼をお許しください。・・・(中略)・・・私は歯科大学の一講座の教室を辞したのち、縁あって臨床医として片山恒夫先生に師事し、平成18年に96歳で亡くなられるまで直接ご教示戴きました。・・・その間、片山先生の指示でNPO法人“恒志会”を立ち上げ、先生の志を継承する目的で現在も活動中です。・・・片山先生は常々噛む大切さを患者さんに伝えなければ歯科医師の責任は果たしていない、口腔内を噛める状態に回復した後、患者さんの全身の健康回復、増進が本当の歯科医の使命だとも言われていました。先生は脊椎損傷で寝たきりになっておられましたが、最後までご自分でも玄米がゆで100回噛みを心がけておられました。・・・先生の大きな目標は歯科医から口腔医へ、“予防と全身の健康を見据えた歯科医療”です。そこには咀嚼、唾液の重要性、口腔粘膜免疫の特殊性を探求することが含まれています。今は、多くの先達の努力によって今国民に口腔内の関心が高まって
きていると感じています。
さて、このたび市来先生が出版された「食の摩阿不思議(東京臨床出版)」、後続の先生の著書「フレッチャーさんの噛む健康法(医師薬出版)」、さらにフレッチャーさんのことも詳しく知ることができ感激しお便りをした次第です。患者さんにも噛むことの大切言を伝えるために役立つ素晴らしい御本です。 この本の資料収集から出版までのご苦労は大変なものだったと推察いたしますが、一般市民のために本当に時宜にかなった役立つ名著だと思います。まずは歯科医師に読んでもらい、私たち口腔を預かる医療者としての目標を若い人たちに知ってもらいたいものです。先生の予防、健康に対する取り組みの熱意に敬服します。・・・」
以上のような、沖 淳先生の有難いお手紙を私は拝読し、と同時に同封されていた昨年(2008年6月20日)出版された、「虫歯から始まる全身の病気一隠されてきた『歯原病』の実態ー(ジョージ・E・マィニー著、片山恒夫監修・恒歯会訳)」の著書をまずは流し読みしたが、湧き上がる感動と共に、直ぐに沖先生への返信には、「・・・送付いただいた著書は、隅々まで熟読した上で私の読後感も書きましょう・・・」などと書いてお送りしました。
さて、私は、実は片山恒夫先生とは、ずっと以前から先生の口腔衛生、歯周病学に対する熱情と、予防に対する患者さん一人ひとりへの愛情など、それらの実践と大きな実績には尊敬の念を払うと共に、先生に関しての著書は出版元から多数に買い求めて待合室に並べたり、大手新聞からの先生の連載記事は、私の診療所の待合室に張り出したりしました。私は今回も、以上のように縁あった監
修・翻訳のために身を粉にしてまでも情熱を傾けられた片山先生の新刊の御著書に再会できました。
私もこれまでの40数年間を片山先生のように、歯科大学卒業後「口腔医」を目標に過ごしてきたつもりです。
以上、長々と前置き述べましたが、以後は、口腔衛生学に対しての考え方などの私の理念と、W. A.プライス先生の「食生活と身体の退化一未開人の食事と近代食・その影響の比較研究ー」、同先生の「歯牙感染一口腔と全身 第1巻、歯牙感染と退行性疾患 第2巻」も含めて、私の感じることを述させいていただきます。
「食習慣」と健康
人々が一生涯にわたって心身の健康を保持増進していくためには、調和のとれた食事や適切な運動、十分な休養・睡眠などにおける“節制ある生活態度の確立”は不可欠なものです。その中でも、子どものころに得られる「食習慣」というものは、成長してからも大きな影響が及んでいきます。 また、成長期にある子どもの“節制ある食習慣”は、心身の健全な成長にも不可欠な要素で、ひいては
社会全体の活力を増進するための礎となります。戦後のわが国の困窮時代には乳幼児死亡率が激増したり、青年期の結核、そして伝染病、栄養失調症、寄生虫病、皮膚病などが蔓延したりして多くの国民が罹患し死亡者も増えました。それらが去り、時代の流れと共に物質社会、贅沢(ぜいたく)社会の到来と共に、今度は脳卒中、ガン、高血圧症、糖尿病、心臓病(心筋梗塞や狭心症)などの死亡が上位を占めるようになってきました。
さらに現代は、ほとんどが病気を抱えた超高齢化、核家族社会の中での孤立生活、ファーストフード、ジャンクフードなどによる乱れた食生活、欧米食生活化の進行、サプリメント(健康補助食品)依存、薬漬け、徒歩から車社会への移行、そしてさらに情報社会の中での精神生活のアンバランスなどという時代に突入しています。
さらにまた、現代の子どもの環境は欧米型食生活、過食、孤食、朝食抜き、運動不足、生活の夜型化、学歴偏重によるつめこみ学習、受験競争によるストレスの増加など精神生活のアンバランス、都市生活化での地域とのかかわりや自然との接触の希薄化などな
ど、生活習慣のひずみからくる全身疾患(生活習慣病)の増加というような大きな問題を抱えています。また、10数年あたり前から、肥満や高血圧症、2型糖尿病など動脈硬化促進危険因子を持った児童生徒が増えていることが多くの調査・研究の結果からも明らかになっています。
さらには、キレる子、躁鬱(そううつ)的な行動をとる子などの精神的な要素を包含するような疾患も増加しています。
生活習慣病の予防に
生活習慣病の予防は、病気を早期に発見して早期に治療するという従来の考え方から、その病因の中で生活習慣を重要視して、病気になる前の、つまりその誘引の芽を自分自身で摘んでしまおうということが主な狙いです。言いかえれば、「健康体は自分自身で作り、そして守っていく」ことがなによりの基本となり、それには、健康についての学習がますます必要になってきます。例えば、健康の価値の認識や自分自身の命を大切にする態度、ストレスヘの対処法などの知識、さらには健康を害することに自らを処し、そして断つことのできる実践的能力などを身に付ける必要もあります。
生活習慣で、最も重要視されるべきものには、まず「規則正しい食習慣」があります。周知のとおり、食習慣の良し悪しいかんでは病気の発生率も大いに違ってきます。その食習慣を、健康という軌道上に乗せることが何よりもまず大事なことです。
しかし、わが国は諸外国にくらべると、幼児から高齢者までむし歯や歯周病にかかっている割合が高く、よく噛める機能が犬幅にそこなわれています。 しかも、比較的かたいものでも、よく噛んで食べて昧わってきた日本特有の食文化は、いまや冷凍・加工食品やファーストフードに象徴されるように飲食化の傾向にあり、そしてますます欧米化をたどり、粉食(精白輸入小麦粉で作られた
食品)や半調理品(レトルト食品)を中心とした、噛まなくてもよいような飲食事体系になってきています。また、本来の「食物」と呼ばれたものは、ほとんどが「製品化された食品(化学物質などを加えたり機械の手を借りたり、さまざまな工程などを経て商品になったものを指す)」になってしまいました。ですから現在の私たちの周囲は、もう食物ではない食品と呼ばれてしまっているものが蔓延しているのです。
いま、子どもたちは、この中で生きなくてはなりません。
しかも、現代の子どもたちの生活はあまりにも忙しく、塾やおけいこごとなどのスケジュールに追われています。そのため食生活は、本来の食事ではなくて”餌化(えさか)”しているきらいがあります。
「口」は健康維持の基本
ことわざにも「病は口から入り、禍はロから出る」とあるように、「口」は健康維持の基本であり重要な臓器の一つです。そのロに関しては、今も、保健婦さん保育士さん、学校関係者の間から、噛めない子、噛まない子、なかなかじょうずに食べ物を飲みこめない子、食べ方のへたな子が増えているという訴えが出され続けています。それからもうすでに20年以上も経過してしまいました。
現代の子どもたちはどうでしょうか。確かに、一見欧米の子どもなみに背が伸びて脚もスラリと長くなってきました。しかし、ヒョロヒョロした体つきの子ども、すぐに姿勢を崩してしまう子ども、朝礼ですぐに倒れてしまったり、ちょっとしたことで骨折を起こしてしまったり、根気のない疲れやすい子どもも目立つようになりました。
ようやく最近「食育」の大事さが言われはじめ、特にその中での「噛む」ことの大切さも認識されて行政や保健・栄養の専門家、歯科医師、歯科衛生上による啓発活動やマスコミなどによる情報提供も盛り上がりをみせてきたようです。
しかし、多くの一般の方々が持つ知識はまだまだの感があり、歯科保健関係者はもっと「口から育まれる全身の健康」に関しての「食育」をテーマにした運動を展開すべきであると思っています。そのために歯科医師は全身の健康科学も栄養関係の知識のどちらも保有していなければならない大きな責務があります。
これらの豊富な知識の元に歯科医師は、口腔に関連する疾患も予防したり治療したりしなければならないのです。このように歯科医師は、医科学の中の「口腔医(口腔医師)」としての専門性を発揮することで、人々の健康の増進や寿命を引き伸ばすこともできるのです。
そして、歯科医師や歯科健康関係者は、『日本人はやはり、日本人本来の「米食・大豆、野菜・魚介類の食性」を考慮に入れた “地産地消”のこと、日本人独特の伝統食を含めた”本来の食性”そして”良い歯で良く噛めるための食環境”をもう一度考え直してみる必要がある』ということも私は強調したいのです。
口腔疾患と全身疾患の関連性
ヒポクラテスの時代から、むし歯菌や歯周病菌が唾液や血液を介して全身に伝播されるとも考えられていました。
現在、歯科の分野でも「口腔疾患と全身病との関連性」が非常に注目されるようになってきています。
むし歯や歯周病は、糖尿病、動脈硬化、心臓病などの全身疾患の危険因子となることが指摘されています。例えば、歯癩病の患者さんは心臓疾患、呼吸器疾患になる割合が、そうでない人の3倍くらいあるといわれています。糖尿病の患者さんの場合は抵抗力か弱いので、歯同病に感染しやすいことや、食道がんの患者さんの細胞には歯周病菌がそうでない人の2倍もあることが明らかになりました。また、日常あごを動かすことで脳の活性化を促し老化を予防したり、健康の入り口である「口」を有効に働かすことによって全身への栄養の吸収や消化を助けたりして全身に恵みを与えてくれていることはもう周知のことです。
喫煙にしても、口から煙を吸引することから始まり、たばこ煙に含まれる200種以上の害毒物質は口腔内に停滞・付着することによって口腔内の疾患を発疾させたり、死に至らせる「口腔癌」という重篤な病気は、喫煙しない人の約3.5倍も起こしたりします。ですから“健康の第一歩は口の健康から”であると明言できます。
まさしく「口」は健康の“門”であり、歯は全身を守るための“衛兵”だと言うこともできます。
年をとると、体力はもちろん消化器官や臓器の機能の減退もまぬがれることはできないということも、そして、さらに、歯を早い時期に失うと、そのハンディもますます増加するということも分かりました。また、高齢者の方々の何よりの楽しみは、他でもない「何でもおいしく食べられる」ことも分かりました。
これらは多くの自分の健全な歯が残されていて初めて可能になり、だいじな全身の健康も保たれ、晩年までも人生を楽しめるのです。
また、たくさん残った歯でよく噛むことは、体だけでなく精神の糧(かて)にもなり、知力の発達を促す、ボケ予防にも寄与しているということも一般の方々にも知られるようになってきています。
「食」に始まって、「健全な自分の歯で良く噛むことの健康法」の啓発の全権を握るのは、やはり私たち歯科医師の大きな務めであると確信しております。そのためには「食の摩図不思議一身体・精神・愛・魂・成績までも育むー(東京臨床出版)」、後続の著書「フレッチャーさんの噛む健康法(医師薬出版)」この2冊の本は、これから述べる「W.A.プライス先生の2冊の著書」との確実な接点となっているのではなかろうかと確信しています。
時計商のフレッチャーさんは1896年から、プライス先生はわずか4年後の1900年のから研究に打ち込まれています。
W. A.プライス先生の2冊の著書
順番は前後しますが、W.A.プライス先生が1938年に、第2節目として出版された「食生活と身体の退化一未開人の食事と近代食・その影響の比較研究ー(参考:1978年には片山恒夫先生が日本語訳で自費出版)」の大著書の中のほんの一つだけを引用してみても以下のようなことを知ることができます。プライス先生が訪ねたスイスの高原地帯の現地人の口腔内と顎、顔つきの調査では、外界から隔絶して古くからの伝統食を守っている集団と、近代化して自動車道も関通し、精白小麦粉で作られたパンなどの多くの文明食に接してきた集団とを比較して、文明の入らなかった集団のむし歯の罹患率はゼロか極端に少なく、文明食に依存していった集団の顎は細くなり歯もぼろぼろとなり身体的にも全身健康への欠陥が如実に現れていたなどと紹介されていました。他の項でも沢山の報告例や症例、数多くの貴重な実態写真も見ることができました。
これらはまさに“現代の、食文化・文明の進化し過ぎた日本人の姿”を予言してくれていました。
極端のことを述べるなら、現代の日本の若年者の食生活の極端な乱れによって、細菌やウイルスに対する免疫力が減退するとともに容易にそれらに感染し大きな病気になることも予言ではなかったろうかと不思議な気持ちを感じざるを得ません。
それは、プライス先生が1923年に出版された第1弾目の“第1巻.歯牙感染ーロ腔と全身、第2巻.歯牙感染と退行性疾患”の中にも、「本書の目的は、むし歯と歯周病によって歯の内部に存在する感染が及ぼし得る重大なる問題を明らかにすることであるが、同時にもう一つの目的は、むし歯や歯周病の予防の必要性が、いかに差し迫ったものであるかを強調することにある。
菓子やジャンクフードがいかに美味しいものだとしても、それを無害とみなすことなど我々にはもうできない。現在、異常に食べられている砂糖を多く含んだ菓子のような食べ物よりも、真に身体にいい栄養素が多く含まれている食べ物のほうが、はるかに奥の深い美味しさがあるものである。
むし歯は食生活を変えることで予防可能であり、また事実そうなりつつあり、その付随的効果による恩恵は実に大きい。食生活を改善することにより、健康もあらゆる面で増進する。最も劇的なことは、我々の社会を非常に悩ませている多くの退行性疾患が無くなることだ。
・・・そして、歯科医が象牙細管内からの全身への感染を根絶する方法をいつの日か見出すことは確かに望まれるが、本書のもっとも重要なメッセージは、読者がむし歯と歯周病の予防に固い決意で臨まなければならないということである。そうすれば根管治療の必要性は激減する。
・・・歯科医と患者にとって、むし歯が単なる局所的な疾患ではなく、全身に関わる疾患であること・・・非常に多くの医学的な病気が、むし歯によって身体全体の諸組織に悪影響を及ぼしていることを理解すべき時はもう来ている。
要約と結論として、むし歯は以下の要因による。
(a) 口腔内におけるpHの低下。(b) 酸を産生する細菌。(c) 歯をとりまく食べものの化学的成分の変化である。上記 (a) (b) (c) の要因は全て、正しい食生活により改善可能である。・・・食生活を通しての身体の抵抗力・免疫力の強化も上げることができるので、病巣感染をさせないために食生活の仕方(習慣)も大事である」ということも的確に述べておられます。
さて、1923年にプライス先生が出版された第1弾目の大著書は、25年間にわたり米国内の一流科学者や医師、歯科医師などの60名の協同研究、そして米国歯科医師会、米国内の医師らの援助や支援を受けて大事業といえる研究を行った末に、「第1巻 歯牙感染ーロ腔と全身ー」、「第2巻 歯牙感染と退行性疾患]の上下2巻の1178頁にも及ぶものでした。
この論文の最も重要な事を抜粋するならば、「・・・歯科医師が、いくら十分に根管治療によって根管内を消毒、上手に封鎖(根充)しても、細菌に感染した歯牙内の各所には治療器具や薬液は届かず処置はできない。それは特に85%を構成し全体で約4.8kmもある象牙細管内に一旦潜んでしまった細菌は変異・変性をして強力な毒素を持つようになり、はるかに強い毒素を放出させ外殻のセメント質や根管側支から周囲の骨内や毛細血管に入り体内に遊離拡散させていく。・・・そのような不十分となる根管治療をしないですむようにするためには「根管充填の必要のある症例のすべては、小さなむし歯から始まる(外傷が関与する場合は除く)という事実」を忘れないようにすべきであるから、定期健診などで効果ある治療や予防の方法を啓発して実施すること(フッ化物の応用なども)、そして、歯科医と一般人などがむし歯と歯周病の予防に固い決意で臨まなければならないということも必須である。そうすれば、根管治療の必要性は激減する。・・・不幸にも根管治療した歯などでも、全身の抵抗力・免疫力が弱るとさらにそこから深刻
な病気につながる恐れがあるので、日常の食生活で抵抗力・免疫力を上げておくことも大事である。・・・」ということなども記載されています。
しかし、プライス博士を中心にして60名の研究者とウサギ5千羽などを使って証明された業績は、残念ながら病巣感染を認めようとはしない少数派の独断的な医師らによって揉み消しが図られ、以来70年間にわたり包み隠されて(隠蔽)しまったといいます。
プライス博士の業績を発見
時は70年も経過した1993年、米国歯内療法専門医のE.マイニー博士が、W.A.プライス博士の業績を発見すると同時に、一般の人々にも理解できるようにと230真の要約本を出版されました。
そのマイニー博士の要約本は、2008年6月20日に片山恒夫先生の監修、恒志会のメンバーらの日本語版で256真の「虫歯から始まる全身の病気」という著書名に仕上げられ出版されたのでした。
著書には、多くの症例やX-ray写真、実験動物の病態写真、図解なども豊富に収録されとても読みやすく、今後きっと、日本の歯科医師の新知見として歯科界にも大きなセンセーションを巻き起こすだろうと信じています。
また、1994年の「Mastering Food Allergies」誌へ掲載インタビュー記事の中でマイニー博士は、「今日の細菌学者たちは、プライス博士の研究チームの細菌学者による発見を正式に認めている。どちらの学者たちも、根管から、同じ種類の連鎖球菌、ブドウ球菌、スピロヘータを検出している・・・」と述べておられました。
最後に私は、この恒志会から出版されたマイニー博士の訳書の出版を契機として、早急にわが国でも専門の研究施設・研究委員、専門の医師・歯科医師(医科、歯科などの連携)、歯内療法専門医などを含めて、さらに現代の発達した免疫学ならびに細菌学からの科学的なアプローチにより検証するとともに、さらなる病巣感染の全容が解明されEBMに則った研究結果が公表されることを願っています。以上の現在の科学的な検証の必要性は、同時に私が2008年9月1日に医歯薬出版から出版した「フレッチャーさんの噛む健康法」にもあてはまるのではながるうかと思っています。
紹介した以上の4冊の著書が、人々の「生涯の健康の保全」と「健やかな食生活」の一助になることを願ってやみません。
2009 Vol.4 より
略歴 市来英雄(いちきひでお)
- 1939年 鹿児島市生まれ
- 診療所 〒892 鹿児島内山之□町5-6 医療法人市来歯科
- 1966年 日本歯科大学卒業 同年 鹿児島大学医学部口腔外科入局
- 1967年 鹿児島大学医学部文部敦官肋手
- 1968年 鹿児島大学医学部退職鹿児島市に開業
現職
- 食と謳の応援団団員 鹿児島人学医学部非常動講師
- 日本口腔衛生学会認定医
- 日本禁煙推進医師連盟 運営委員 鹿児島県小児保健学会会員など
- 開業のかたわら予防歯科活動に取り組み、絵本「ミュータン旅へ行く」シリーズ①、②、③、「フレッチャーさんの人発見(日本図果館協会推薦図言)」「歯の妖精 アポローニア」、歯性病巣感染から失明を救われた実話の絵本「ブレン神父の奇跡」、「ロバに入れ歯を贈った歯医者さん」などの絵本、「海底に咲く花」長編SF、小説など多数の作品がある。
プライス博士 「Dental Infection」 から歯周病を読み解く
関 正一郎:NPO 恒志会理事・歯科医師
今回、表記のテーマを戴いたがDental Infections Oral and Systemic Vol.1(歯牙感染―口腔と全身 第1巻)に700頁にわたり述べられている内容をここに紹介することは、私の力量ではとうてい不可能です。
口腔内の二大疾患の1つである歯周病をPriceはどうとらえたのか、私の印象の概略を述べて責任を果たしたい。
Priceがこの疾患の集中的研究をスタートさせた20世紀初頭において、”歯科を含めた一般医科の中でも、この病気ほど多くの常理に合わぬ現象を含んだ例は他にない”とし、”我々が未だ、見当をつけられないような基礎的因子があり、それ故に矛盾と混乱の網目に入っている”と、新しいアプローチに取り組む決意を示している。
Priceの研究の骨子は、この病気が現わす個人の臨床データの完全な分析と、注意深い特徴の検査、血液と唾液の化学と、細菌学のデータにかかわるものである。
そして、1400人に及ぶ個人の家系3代にわたる特徴の広般な研究を通して、歯周病への感受性に関する、全く新しい基礎的な真実を見出したのである。
これは歯科患者さんがリウマチ病変に示す感受性の有る無しで、大きく4つのカテゴリーに分けられ、齲蝕・歯周病への感受性に関わって、順次変化が見い出されるという全く新しい内容である。
1919年に最初の650人の調査から得られた事実を、更に確認するため、これに関する研究を全く知らされないチームによって、1922年に再びチャートが示され、はじめて公表されたのである。
経験のある歯科診療者なら、広範な歯周病の感染を伴った歯はカリエス性の破壊を蒙らないことを知っている。
この逆説こそ歯科病理学の多くの解釈に重要な鍵を握っていると考えたのである。
Priceも現在の我々同様に、歯周病は炎症性疾患であり、外傷性咬合をも含めて、何か性質に合わないような刺激物を、正されなければならないと考えた。
そして、重要な役割を演ずる機械的刺激、バクテリアの広範な研究、薬物の局所的・全身的効果、放射線の組織への影響まで、その相対的重要性を決定しようと綿密な研究が行われた。
詳細な研究内容は省かざるを得ないが、Priceの研究の大意は次の様に導かれたのである。
Priceの時代、歯周病(辺縁性歯周炎)は病態を表す Gingival Infections, Periodontoclasia, Pyorrhea alveolaris が使用されていた。
第1. 歯周組織崩壊症、歯槽膿漏症の基本的因子は特別の感染ではない。
The fundamental factor in periodontoclasia, or pyorrhea alveolaris, is not a specific infection.
第2. その病因は、直接には感受性の有り・無しに関わり、明確な全身状態の徴候である。
Its etiology is in a direct way related to the presence or absence of susceptibility, by both being symptoms of a definite systemic condition.
第3. 我々が理解してきたこの疾患は、ある非常に明確な点において、防護因子にかかわっている。
The disease we have known as periodontoclasia, or pyorrhea alveolaris, is in some very definite way related to defensive factors.
次に Price が新しい発見として示した、歯科疾患患者のリウマチ群病変への感受性と口腔疾患に対する免疫の、活発と不十分さに従って示される特徴をまとめたチャートを示す。
この表を簡単に解説すると、一番左の項目は歯科患者さんの、歯や他の原因でリウマチ群発現 (変性疾患)にかかわって、4つのカテゴリーに分類された。
一番目の Absent Susceptibility は感受性のない、即ち抵抗力の強いグループ。
二番目の Acquired は後天的感受性群で過負荷や様々な生活由来の影響を受けていると考えられるグループ。
三番目は両親あるいは片方から遺伝的にマイルドに感受性を受けたグループ。
四番目は再起不能等重症の強い遺伝的感受性を、両親を含む双方の家系より影響されていると考えられるグループ。
最初のリウマチ感受性を持たない歯科患者の 歯周組織崩壊症 Periodontoclasia の罹患率は高く(23% ~ 40%)、二番目の後天的感受性を持つグループは (33% ~ 25%)、三番目の軽度な遺伝性感受性は比較的少なく、最後の強い遺伝的感受性を有するグループの罹患率は0%、それに比してカリエスは慢性的に強く100% 近い罹患率を示し、際立った特徴が明らかである。
更に、局所の歯科病理学(骨の希薄性骨炎 rarefying osteitis 及び緻密性骨炎 condensing osteitis)、血液・唾液の変化と種々の個人に見出される状態を関連づけている。
そして、活発な Periodontoclasia は例外なく、血中カルシウムイオンの濃度が高いことが見出され、それに伴い唾液のアルカリ度も上昇していることが明らかになった。
この様に Price 研究を見て来ると、歯周感染に罹りやすい人は、大まかに言って、防護的活性が高い事を示し、歯周病の全身説かと思われるが、決してそんな単純な見方ではない。
この様に強い防護性を有した個人は、高い或いは異常に高い血中カルシウムイオンバランスの維持が可能であり、その人の歯肉の支持組織は、刺激の存在下で、容易に吸収されやすいという、正に比例していることを見出している。
そして唾液の注意深い研究は Periodontoclasia に罹りやすい個人は、よりアルカリ性で活性状態では、ポケットの内容物の水素イオン濃度は7.7 にも達し、しかるに血液のそれは7.3なのである。
また我々臨床で経験する如く、歯周病を伴った 歯の抜歯窩は速やかに治りやすいことを知っている。
これに反し、著明な緻密性骨炎の抜歯窩は血餅が壊れやすく、痛みを与え、ドライソケットになりやすい特徴を示し、アルカリ予備も低く、血液は低カルシウムを示すと報告している。
更に注意深い顕微鏡的検査で Periodontoclasia に伴って抜かれた歯のソケットに見られる白血球は、大部分多型核白血球で、細胞質は顆粒に満たされ、旺盛な貪食能を示し、後者のソケットは著しく差異を示し、活発な動きを示す顆粒を伴った白血球は食菌細胞的白血球はより少なく、たくさんの微生物が細胞外にある状態を観察している。
この現象は当時どの文献や血液学者も報告しておらず、現在いわれる「白血球の自律神経支配」 説の先がけとして、すでに観察報告しているのではないかと思われる。
私が特に感銘を受けた部分は、以下の論究の部分である。Periodontoclasia pyorrhea alveolaris として知られる病変の中に、重要な役割を演じていると思われる素因について即ち機械的刺激、バクテリアの侵入、防護的反応の相対的重要性を決定しようと20年にも及ぶ研究を重ね、微生物とその生長に及ぼす薬の種類、放射線照射の影響等、それぞれ一巻を満たすほど徹頭徹尾行われたのである。
その結果、歯ブラシによる機械的除去とその刺激効果は著しく有益で、多くのケースにおいて臨床状態の進行を防ぐ、必要にしてすべてであることが明らかになったとしている。
「もし、指示通りに、十分に知性的かつ誠実に使われていれば、歯周組織崩壊症あるいは、歯槽膿漏症として知られる病気の進展をほとんど完全に防ぐであろう」と述べられていることは、すでに90年も前に提示されていたのである。
続いて、歯周病が初期の段階からいかに進行して全身的影響にかかわるかも詳細に解説しているが、今回は割愛せざるを得ない。
Price はこの Dental Infections Oral and Systemic Vol. 1(歯牙感 染―口腔と全身 第1巻)Dental Infections and the Degenerative Diseases Vol. 2(歯牙感染と退行性疾患 第2巻)を著した後、1930年代から世界14カ国で伝統的な自給食の生活をしている人びとと、同じ民族で白人の近代食生活への移行した人びととの、口腔内の状態と身体変化について、生態学的調査を行い「食生活と身体の退化」として結実した。
片山先生はこれに逸速く注目して、翻訳自費出版され、食生活改善への比類なき動機づけの媒体として、歯周病治療に活用された。
Price は更に述べている。
「除去と鼓舞することに、速やかに効果を示すものと、非化膿性で反応に乏しい状態との非常に大きな違いを読者の方々に忘れないで欲しい事です。」
「歯の周囲の炎症プロセスは直接表現であり、こうした病変がある間に特徴的に見られる異常に強い生体反応は刺激物に対する個人の対応力の尺度である。」
「刺激物に対するこれほど強い対応力を示した人も、その高い防衛力を失う状況や状態に陥る事もあり、そうなるといくつもの変化が出てくる。それは、歯槽骨吸収の停止、歯周ポケットのアルカリ度の低下、細菌叢の変化で、局所の炎症性障害や膿漏の症状は無くなってもこうした変化は全て、その後の最も危険なタイプの全身の病巣感染につながる可能性がある。」
「普通の観察者、無経験者、専門家にとってこれらの2つの非常に相互に似ていない状態は、同種か全く同じと思うが、それらは潜在的に違っているのである。」
「これら刺激に対する異なった歯周の表現あるいは反応が伴うものであり、疑いもなく、血中イオンカルシウムの変化に関係している」
と述べている。
未来の歯科医の百年の歴史を刻んだといわれる W. A. Price の科学的データと臨床応用が、色々な思惑から包み隠されて来た事は本当に残念なことだと思います。
最後に私が片山先生に出会い、経験させて頂いた歯周病で来院、30年検診を続けている2症例を示して、この任を果たしたいと思います。
Drダイヤモンドの発言とその後の出来事
2009 恒志会会報 Vol.4 より
NPO 恒志会理事 緒方 守
平成21年3月29日、日本歯科大学の小ホールをお借りして日本で初めてオーストラリアの精神科医ダイヤモンド博士の講演会が開催された。博士は「恒志会」と密接な関係にあるアメリカの、食生活と身体の退化問題に取り組んで来たプライス財団の重要なメンバーである。今回日本に特に京都に訪れる機会を利用して、Dr.ダイヤモンドに会ってみたらどうかとの先方から連絡あり、最初はこちら側は20名程度でお話を聞こうと沖先生から知らされていた。 しかし博士はアメリカ、オーストラリアを中心にこれまで多くの難病の患者を枚い、1000回以上の講演会を依頼されて来た人物であることが分かり、我々だけがお話を聞くのではもったいないとの話になり、開催される月初めに急遽案内ビラを作成し公開講演会に変更して実施されたものである。
それぞれの人脈を通じて呼びかけ、それでも当日には約100名の聴講生が集まった。講演には黒板さえあればよいとの連絡あり、案内情報としては心霊学から音楽、絵画を利用した心理療法までこなし、筋機能型の口蓋拡大装置SOMA(Splint Orthodontic Myofunctiona1 Appliance)を使用することにより、様々な難病の人を款ってきた旨が知らされて来た。
講演終了後、参加者に感想文を書いて貰ったが、その中にオカルト的なことを説かれるかと想像していたら、予想に反して全く科学的で解かり易かったとあったが、片山先生のことを宗教的と評された時に科学者に思えると語り合ったことが蘇った。通訳には理事メンバーである女性肛門科専門の山口時子先生のお世話で通訳者を教育している田村智子先生が当たってくれた。
講演終了後、夕食をご一緒させて貰ったが、ジョン・ダイヤモンド博士は1957年シドニー大学を卒業した74(76?)歳(NHKで語学の天才と謳われた鈴木博信副理事長と同じ歳)だがまったく若々しい。奥さんを伴っての日本訪問だが、娘か秘書と勘違いしたほどこちらも活動的な人で若々しかった。
博士はまったく肉食をしないようで肌は美しく、自然料理を出すレストランでは火を通してくれと確か野菜料理だと思うが注文をつけていた。食事に想像以上の気の遣い様で、見た目には全てに寛容に思えるので驚く。
以下、講演内容の独断的把握と食事会に参加して感じたことを記述してみる。
講演に先立ち、我々に健康とは「情熱を持ち、意欲を持って、心から感謝の気持ちを持って、自分の生命を抱く」と唱えさせ、それをしなければ病気の状態と変わらないとの博士の健康観を説いた。博士の言葉を我流で以下復元してみる。
このエネルギーが大切で、自分の生命から逃げようとしないことを意味する。遂に駄目だ、駄目だと思い込んでいる病弱な息子と乳がん手術をした母子が来たが、留守番している心臓病の父親のことを他人ごとのようにもう死んでいるよと話してまったく自分の生命を抱こうとしていない。プライスのことを話し、食事療法を薦めたがはじめから駄目だ駄目だでやる気がない。薬を処方することは出来るがこのエネルギーが働かないと治らない。 このエネルギーを発揮させる療法に歯科医が大いに関わって来る。
35年前に歯科医ウィリー・メイが全身病をたくさん治しているとの話を聞き、彼のもとに訪ねてみた。そこで彼が癌からレイノー病まで驚く結果を出しているのを目にした。その時に歯科が心の問題に関わっていることを知っていたので、後の診療で歯科医のDr.クルーズのところへやる気のない青年を連れて行った。その青年は開口させると26mmしか開かない。次の日応急処置として4本のステックを噛ませて呼吸気道を広くした。横よりも縦の回復をさせたら呼吸が楽になり彼は笑うようになった。生きたいというエネルギーが出て来た。そして46 mm の開口が心のやすらぎに如何に大事かを悟った。
全身病を治すには生命へのエネルギーが必要であり、そのためには心のやすらぎが必要となる。心の健康には呼吸が楽に出来ることが大切で舌の位置がどこに来るかが問題となる。歯科医はホリステック・デンティストリーの役割を果たすべきである。ロの中の平和が来なければ心の健康状態を保つことは難しい。刑務所に行く機会あれば、彼らのロの中の状態を見て下さい。問題あることに気づくでしょう。では生命へのエネルギーとは何でしょう。
60年代、私は精神科医として病院に勤めていた。一人のナースともう一人のスタッフを与えられ、200〜400人の患者を抱えていた。それも重症な方の患者を任されていた。一番長く入院していた患者は救いようがないと思われていた。まったく一日中何もしない。 自分を閉ざし完全に生きることから逃れていた。そんな彼らを診ていて分かったことは歌を唄わせたり、絵を描かせることが想像以上に効果があることだった。精神病の薬も効いたのではと思われるかも知れないが、効果のある高価な薬を重度の患者には病院側は使わせないでいた。わたしが使ったのは、白い粉の便秘の薬です。便が出て精神も安定するでしょう。薬のサンプルを渡され試すように言われた時、実際には使用してないのに効果があった。薬に効果はあったと報告したが実際には使用してない。
では何故よくなったのか? 看護婦長はあなたがやったという事実が効果を挙げたんだと答えた。
私がやっているという事実が唯一の治療法でした。 Drが患者のことを思ってし始めることによって、20年も入院していた重症な患者が退院出来た。その人に生命を大切に使おうというメッセージを伝えることが出来たからです。
51年前、医師免許を持ったとき、交通事故でまったく同じ症状の二人の青年の患者を初めて担当した。二人は同じ感染症を起こし、同じ抗菌剤を投与したが一方は死に、一方は生き残った。部長に何故こんなことが起きるのか尋ねてみた。診断も症状も治療も同じだった。何故?
部長は治る人もいれば、治らない人もいる、と答えた。「治る人は何かを持っている。」と言った。私は何を持っているのかをそれから考え姶めたのです。それは日本語の生命エネルギーを表す言葉「気」でした。
「気」が「何かを持っているもの」の「何か」なのです。重要なのは気なのです。患者さんが私に治療を求めて来るとき、知りたいのはその患者さんの持っている気はどのくらいかということです。だから私はすぐ治療に取り掛からず、この「何か」を知るために患者さんに最初の一週間を使います。
私のヤング・ブラザーに「気」の文字をボードに書いてもらいます。
〔そこで鈴本博信副理事長が登場して、「氣」という戦後からの略字でない旧字(本来の正当な漢字)を書いた〕
この「氣」を知り、この「氣」を高めることが重要なのです。だから患者に質問します。一番楽しいことは何ですか? 生きていて楽しいことは何ですか? ピアノを弾いたり、踊ったり、写真を撮ったり、絵を描かせたり、歌わせたりしてそのことから大事なことが分かり、その人の「氣」を高めることが出来たりするのです。
色んな病気を持っていることは大したことではないのです。それは医学的処置をすればよい。「氣」は「癒す」のです。医学的処置は「treat」ですがそれは癒すことでなく治療です。癒すは「heal」です。症状が改善して退院するとき、「氣」のレベルが高まってないと糖尿病の患者の予後は悪いのです。
鍼灸の経絡があるでしょう。経絡のスポットを使うと「氣」の変化が分かります。体に刺した針の効果が5時間掛けて自然に出て来るのです。 5時間もの間、体は「氣」を取り込んでいたのです。
この次お話する時は、この経絡についてお話しましょう。
「氣」が高まるとその人を「癒す」ことが出来ます。それを薬で治していると「氣」が下がって来ます。「治療する」= treat(処置する)で、 heal =「癒す」とは違う。癒すとは mind、心の問題なのです。生きたいという気持ちを高めることが治療よりも重要なのです。
10分間休憩しましょう。
(再開)日本では10分と言えば10分なのですね。オ一ストラリアでは10分は30分を意味します。
フロイドは魂を癒す職業を作ろうとしたのです。精神科医を辞めて心に辿り着きたいと思ったのです。フロイドは魂を癒したいと思ったが、mindを「頭」と訳されてアメリカでひどい仕打ちを受けました。英語の「heal」の語源は「全体」と同じ語源なのです。その人全体を完全な状態に戻す。
宗数的な話をしましょう。「道元」とアメリカで言っても?ですが、仏教の中で4つの真理(心理?)を説いています。
仏陀が40日間動かない時に悟ったことですが、人間は皆、人生は苦しい。 Anguish=息苦しい。苦悩、苦悶です。(これは苦悩を癒すとした本です。 カラー・セラミックです。スイスの医者マックス・ルシャーの本です。)
この苦悩をどうするか? 本当の癒しを魂に得させる。 Soulを完全なものにしてあげる。それはMuseなのです。 ミューズとは芸術の女神ですが、誰にもミューズが宿ってます。 トルストイも「神の王国は自身の中に在る」と言っています。 クリエイティブな作業即ち創造性は心の中にあるミューズから来ます。苦悩はこころ(Soul)から来ており、それを癒すにはMuseの創造性が必要なのです。
Healing、Anguish、Muse、Creativity は全て同じことを言っているのです。 この作用で人生が変わるのです。
もうひとつ日本語を教えます。「自力」と「他力」です。若いロック歌手で自分以外のものに頼るなら死んだ方がましだと彼は言っていた。人の言うことに耳を貨さない。(夕食会の時にもひどい確か喘息だったとの説明だった。食事はファーストフードばかり食べていた。)彼は自力を信じていたが、それでは治らなかった。重要なのは他力です。「円相」知ってますか? ドイツの学者が仏教の勉強で日本の禅寺を訪ねた。そこで僧侶が見事な円を描いてみせた。力強い完璧な円です。
みなさんはこの円を見て誰を思い浮かべますか? 母親を普通思い浮かべます。この円は乳房に通じています。
心が悟っていて平穏だと完全な円が描けるのです。赤ん坊はこの乳房を舌で感じています。その時心が平穏なのです。でもゴリラの赤ちゃんと人間では産まれてくるときの状態が違うのです。 ゴリラは上を向いて産まれて来て、母親を見ることが出来ます。人間は下を向いて出て来ます。腺のサイズと赤ん坊の頭の大きさ部ゴリラとは違います。
ゴリラは膣のサイズが頭より大きくて容易に生まれて来ます。人間はねじれて産道を通過しないと生まれてきません。人の助けが要ります。 自力ではないのです。そのことが人間の考え方に作用してます。苦悩の始まりです。ねじれの影響からお乳の吸い方がうまく出来ないとそれが心に問題を起こすことに繋がります。また母親の胎内にいたときの8週間の栄首部ストレスと関係あり、頭蓋のパワーを減じます。産道を通るねじれから舌の位置が狂うと呼吸に影響し、心が平穏になりません。ストレスは母親の責任ですが、歯科医は舌部ちゃんとした場所に来るようにして、口の中の平和をもたらす手助けをする役目があると思います。でないと、こころの平和を得られないからです。
次に1926年、精神科医 森田正馬先生のモリタセラピーをご存知でしょうか?
まず私の患者で行う最初のステップは、静かに寝心地のよいベッドで瞑想させることです。壁の色も慎重に選びます。看護師に母親のように食事を与えてもらいます。これが効果的でした。こころの平安・平和が大切です。
瞑想させることによって苦悩を知り自分の魂しいを見つけるのです。これがフロイドがやりたかったことなのです。人間は誰でもこの療法を受ける権利があると思います。何よりも先にやること、させることは静かに瞑想することです。皆さんご自身もこれをやることです。
そして他力を願うのです。 Selfmindと呼びます。我々部している仕事は苦しんでいる人を助けるということです。
私が唯一求めているのは、私が患者を救うことを助けて欲しいと願うことなんです。静かに瞑想し、その後積極的に俳句、絵画、ダンスなどを他力を得てやるのです。それは創造性を高めることなんです。 自分自身の魂しいを高めることなんです。
皆さんもやって欲しい。私がやっている禅画をお見せしましょう。墨、硯、水滴、文鎮、下敷き、筆さえあれば出来ます。
皆さんもやって下さい。
全て他力で描いています。より積極的に瞑想します。その一つは究極的には癌の症状の患者もすぐ治ること、それが起きればよいと願うのです。そして描くのです。 日本語ではどういう風に表現しますか?
〔鈴木博信先生登場して「感情のほとばしりによる書画踊り」と黒板ボードに書く〕
自分の感情のほとばしりを瞑想のあと表現するのです。 35年間、やって来ましたが、経絡と感情は繋がっています。 この次には経絡の話をしたいと思います。 1日咀嚼を何回しますか? 噛むと氣が下がります。ストップして力は戻ります。職業に関係なく咀嚼が氣に関わっています。氣のエネルギーを与える経絡が胃に12ポイントあります。
何をしても駄目という人にそこのスポットを叩くのです。 200の経穴の中の40ポイントが重要です。
それぞれの感情と関係しているのです。次の機会には経絡の話をしましょう。
〔大澤理事度々登場して、Drダイヤモンドからマジックを見せますと言われ、箸を噛んだり、体を叩かれて腕の力の変化を経験させられる。後で体に何か起きたのか彼に訊いたら、ただ痛かっただけと答えていた。〕
以上がDrダイヤモンドの通訳の言葉を独断的に聴いて記した内容だが、人間とはどんなものかを知り、その人の持つ「氣」のエネルギーによって苦悩から救われるか救われないかが大きく作用している。病気そのものは大した問題ではない。
その人が生命に対し積極的な感情を持つこと出来るかが重要である。だから診療の始めは、その人がどんな感情を持っているかを知るために時間をかける。人間はゴリラと違って生まれる過程から苦悩を持つような生まれ方をしている。歯医者は全身的(ホリスティク)な取り組みをし、呼吸機能を改善させる分野を担っている。
口の中の舌の位置を健全にさせることによって呼吸が楽になり、それが体に平穏を与え、氣を高めることになる。
人生にやる氣を起こさせるには好きな芸術の何かをやって貰うことも大きな効果を生み出す。感情を高めるには最初に瞑想をし、その過程を経て一挙に感情のはとばしる芸術を実行する。瞑想のときに他力を願うのである。私は患者を救える他力が与えられることを願う。
以上のように解釈したが、細かいところは間違っているかも知れないが大筋において間違いないと思う。
この後、私は食事会に参加したことでさらにDrダイヤモンド夫妻を観察することが出来た。初めて日本を訪れたというが、日本文化に夕食会に参加した誰よりも深い関心を寄せていたことに驚いた。食事に遅れてやってきたのは靖国神社に寄って来たからという。理由を聞くと日本では桜のお花見で賑い合うというがそこで庶民がどんな食べ物を食べているのか見物したかったとのこと。前日は銀座に食事に行ってご飯を注文したがメニューがなくがっかりした様だ。
田舎に連れて行って昔ながらの庶民の食文化を味わって貰えばよかった。
友人から東京の自然食の食材の店を探してくれと頼まれており、翌日山口先生が案内することになった。
以下話題になったことを挙げれば、俳句は小林一茶の句が好きで理由は小さな生き物を対象とした句が気に入っているからの様だった。
「万葉集」にも戦後日本の海軍の青年から紹介されて以来、関心をもっている。映画は黒澤明監督の英字字幕のビデオはないか聞いていた。「影武者」では戦闘のシーンが全然ないことで深い関心を持ったようだ。小さい物への愛情や、平和な状態に関心があり、戦いには興味ないようだ。「ラストサムライ」のモデルが西郷隆盛だと説明したら、彼は最初は同じ仲間だったのに、その仲間と戦うことになったと聞いているがそれは何故かと尋ねてきた。
日本の歴史にも関心あるようだ。
食事メニューの火加減に気を遣い、若いロック歌手の食事が問題だったことも語っていた。またSOMA装置を使用したら思春期の女性(ダウン症)が性に目覚め活動的になり、妊娠する事件が起こった。そこで本にそのことを載せることは省いたが、その療法は続けていると語っていた。
音楽は聴くよりも、唄うことが大事。歯科医が精神的にまいって、お金にこだわって来るのは、患者さんとの顔の距離が近いからである。 これはかなりのストレスを歯科医に生む。精神の安定には両足の足裏が地面または平面についていることが大事である。
歯科ユニットもそうあるべきだ。
ロの中のメタルはよくない。全てポーセレンで修復すべきである。根管治療はせずに抜歯するほうがよいとの見解も持っていて、我々の考えとの違いも話題となったが原因不明の難病にはマイニーのいうことを考慮せよということは確かだ。
理事の藤巻先生の「内観」療法に関する経験が話題となった。「内観」という療法はまだ博士には伝わっていないようで知らなかったが、静かに恩を受けた人を省みるとき、母親のことが内観を受けた人に思い浮かんで来て、感謝することからその人の苦悩が取り除かれて行くとの話を聞いて大いに頷いていた。ご夫妻はこの「NAIKAN」の言葉が気に入ったらしく何度も声に出していた。
理事の山田勝巳先生に通訳して貰って、偶然というのはあるのか尋ねてみた。答えは「偶然はない。全ては他力。」と返ってきた。博士は我々の会を認めてくれ、機会があればまた来てお話したいと言ってくれた。その後の聞き伝えによると聴講していた森克栄先生がDrダイヤモンドのところに行き、Drダイヤモンドが今度はSOMA装置のDrクルーズを一緒に日本に連れて行きたいと話していたと恒志会に伝えてくれたらしい。
貧乏所帯の我がNPO法人には講師料は無料だとしても、往復旅費、宿泊科、会場費の工面が出来ないので断念せざるを得なかったようだ。歯科疾患と糖尿病セミナーの際のサンスターの様な志あるスポンサーがつけば別だが、事前に受講希望者を幕って資金の目途を立てて呼ばないと駄目なようである。それにしても興味深いことを説く博士であった。
博士が医師免許取り立ての頃、重症な患者には胃薬しか出すことできず、また人体試薬を飲ませずにいたのだが効果があり、看護婦長からあなたが処置をしたという事実が効をそうしたと言われたとの話を聞いたとき、片山先生の言葉を思い出した。もう25年は経過したか。片山先生から一度訪ねて来いと言われて勤務先同僚の堀俊郎先生を誘って初めて伺った時のことである。そのとき「Oの会」の北川原健先生、藤巻五朗先生、和歌山の坂本幹彦先生と合わせて5人が呼ばれた。
その席で片山先生は「先に言って置くけど、片山療法は君達が知ったらなあんだと、必ず言うだろう。私が治している方法はすべてプラセーボなんだよ。」と言われた。片山先生の患者は何故あんなに早く歯肉が変化するのか? 何故片山が言うと患者はやる気を起こすのか? 博士は治る人の持つ「何か」は何かと追い求めて来た。 自分自身を瞑想から高揚させ、「氣」を高めた。
片山先生はもう一人の自分を作って、その人を高めろと言った。瞑想から感情のはとばしる書画踊りは創造性を高め、片山先生の言うもう一人の自分を高める創造性、情熱が同じ様に患者を動かしていたのだろう。私は霊長類である人間は死んでも死なないのではと思われる不可思議な体験をしているのでDrダイヤモンドに偶然はあるのかと尋ねたのである。彼は私の質問の動機をどう捉えたか分からないが、答えは「偶然はない。」「全ては他力だ」だった。
その後の体験を記述してみる。
講演会のその4日後、イタリア大使館員だった人で日本文学「万葉集」に惹かれ、職を辞しその後日本の大学教授にまでなって停年を迎えた人物に会った。 日本人である私が学生時代何度読もうとしても読了することが出来なかった保田與重郎のいうことに興味をもって職を変えたというから驚いた。
「万葉集の精神」を記した保田與重郎の何に注目したのかを尋ねた。保田は大伴家持を取りあげたことと平安時代の女流文学の基礎が「万葉集」にあると説いたとこに注目したと言っていた。そしてその保田は影山正治という人物に出会うことによって非常な影響を受け、変わったと思うと語った。
先に述べた片山先生に初めて豊中に呼ばれた時、ドアか壁に飾られた肖像が目についた。「これはドン・キホーテですか?」と尋ねたら、「彼は我が家の象徴だ」と答えてくれた。
そこで、帰宅してから、日本民族が一番エネルギーを持った年と聞いている昭和15年に書かれた「ドン・キホーテ」の詩を礼状と共に片山先生に送った。すると手紙が届いたころ、すぐ片山先生から「この詩は誰が書いたのか?」と質問が来た。「影山正治」という人ですと簡単な略歴も説明した。
すると「この人の書いたものをお父さんに聞いて、全て送ってくれ」と要請された。そのことを父に相談すると「求道語録」と「一つの戦史」を送れとアドバイスされた。影山正治は片山先生と同じ明治43年生まれである。その片山先生がこの「一つの戦史」は今の若い者には是非読ませないといけないと言ってくれた。
招待されたメンバーには全員この本を送ったと記憶している。 この本を年内に再販したいとの話が「展転社」から持ち上がり、時代背景の解説付きの本が出版されようとしている。その序文をこのイタリア人ロマノ氏が書くという。同じ週に二人の外国人から「万葉集」の話を開くとは思わなかった。
その後「恒志会」ではホリスティク歯科学と言える「口腔医学」について探索してみようということになった。「口腔医学」をいち早く世に問うている九大元総長で現福岡歯科大の理事長である田中健藏先生を訪ねろとの話が来た。私が大分に法事で帰省する機会を利用して福岡歯科人を訪ねることになった。 4月浜松医科大橋本賢二教授のもとで開催された「口腔科学会総会」で「恒志会」理事の菊地哲先生と一緒に同級生の福田広志先生の紹介で知り合った大関悟教授を頼りに、大学を訪ねることにした。
法事の出席者への打ち合わせで、出発の前日に福岡歯科大を訪ねてから郷里大分に入ると連絡したら、国立循環器センターヘ九大から移っていた緒方絢氏より、福岡歯科大に行くなら是非田中健藏さんを訪ねてくれとあった。奥さんの一番上の兄が田中健藏先生というからこれには驚いた。福岡歯科大がどこにあるか分からないのでタ刻ホテルに着いた後、大関先生へ理事長先生は大学に毎日来ているのかも分からないので、兎に角明日訪ねたいとメールした。道を知るため前日大学に行ってみた。
外来は終わり、付属病院の受け付け玄関には誰も居なかった。暫く掲示板を見ながら帰るうとしたとき、一人の看護師さんが通りかかった。声を掛けられたので、大関先生の部屋はどこに行けばよいか明日のために尋ねてみた。すると電話を入れてくれ部屋まで案内してくれた。
大関先生は私のメールを見て田中理事長先生に連絡とってくれていた。田中先生は明日は東京へ行かねばならないので北村憲司学長にも連絡して資料も用意して自分の代わりに会うように指示してくれていた。突然私が現れたので、大関先生は、帰宅寸前の田中先生へ連絡してくれた。
そこで田中先生と北村学長と大関教授との4人で2時間くらいお話することが出来た。10分遅れていたら、翌日は田中先生は居ないので会えなかった。10分あの看護師さんが現れなかったら、またあの看護師さんが部屋まで案内してくれなかったら、その前に私が看護師さんに大関先生の名前を告げなかったら全ては後手だった。
その後6月初めに三浦半島で開催された神奈川歯科大主催の口腔粘膜学会の総会で田中先生が「口腔医学」の特別講演を依頼され、前学長の本田武司先生も「口腔医学」について講演されることになっていたが、その折を利用してお二人に我々のメンバーが会うことが約束された。総会での講演の翌日、品川のホテルでお二人と最初は昼食も兼ねてということであったが、食事することもなく、3時間に亘ってお話を聞くことが出来た。我々のメンバーは沖先生とのきた先生と私の3人だった。
そこで知って驚いたことは、本田先生とのきた先生は同じ大学の先輩後輩で、しかも同じラグビー部の大先輩と後輩だった。 Dr. ダイヤモンドはホリスティク・デンティストたれと唱えていたので、ホリスティック医学協会の理事でもあるのきた先生が適役と思い面談参加を誘ってくれるよう沖先生に頼んでいた。のきた先生は福岡歯科大と聞いて、密かに鬼より怖い本田先生に会えるのではと思っていたようだ。のきた先生の直立不動の姿勢を崩さないその生真面目な間柄は、OB会での緊密ぶりが伺われた。それにしてもこの一連の展開を誰が仕組んでいるのだろうか? 我々を動かしている「他力」とは何だろう。偶然は存在しないとDr. ダイヤモンドは言う。
福岡歯科大の報告では、看護・介護の分野を積極的に若き歯科医の卵に経験させ、他科と連携させることによって「口腔医学」を学ばせ教育カリキュラムを確立させようとしていることが報告で分かった。
そして田中先生たちと面談する直前の6月初めに満88歳の私の父が脳出血で倒れた。不幸な出来事だがタイミングは連続している。 3週間の脳神経外科病院に入院の後、転院して湯布院で回復リハビリを受けることになった。 自力で体を起こせなかった半身不随の身が、今は自力で車椅子を動かしている。感心するほど至れり尽くせりのリハビリ生活の中で歯科医として家族として気づいたことを病院側に随分と指摘した。私が与えた口の中の清掃器具を珍しいと見学に来たこともあったらしい。脳梗塞を5年前に起こし、誤嚥対策を父母に言って来たが耳を貨そうとしなかった父もお前の言ってた通りだと観念している。全てがとろみになったとその徹底振りに従っている。
しかし、今回入院した二つの病院には歯科医も歯科衛生士も一人もいないのである。まったくDr. ダイヤモンドの指摘とわが国の歯科事情は逆行している。福岡歯科大ではリハビリに対しどのように歯科医たちは関わっているのか知りたくなった。
痰が詰まってチアノーゼを起こした以外は危険な状態に陥ることはなく、寝たきりになることが予想されていたが、本人は歩くつもりでまだ絶望してない。死ぬにしても前向きのまま死を迎えるだろう。
それよりも家族中を心配させているのは、毎日面会に通っていた病院から、遠く離れた回復リハビリ病院に父が転院してからの84歳の母の急激なうつ症状の深刻さである。「氣」がどんどん失せていくのである。食欲がないので食事はしない。真夏に脱水で脈拍は130と早くなる。人には会いたがらない。薬は飲んだと言って隠してしまう。得意だった書画や書道も一切しようとしない。全て
がネガティブである。 こうなると遥かに精神を病む方が厄介だし、危険に思える。兎に角一人に出来ない。6月終わりから2ケ月の間に4回ほど帰省したが、私がこちらに戻った数時間後東京に居る妹が母に電話したら、「守が帰ってしまった。」とボソッと言うだけ。異常を感じた妹は翌日仕事をキャンセルして急遽帰省したら、暑い部屋の中でクーラーも掛けずに一人ぽつんと座っていたとのこと。
病院に連れて行ったら心電図が測れないぐらい針が振れてしまう。脱水するとそうなるらしい。落ち込んで行く人間に対しどう対処するのか? 何だこの入れ歯は? 反対咬合になっているではないか。咬合高径は低く磨り減ってそれで反対咬合になっているのかと思った。 口元を噛み締めて下顎を突き出す。 どうにもならない自分にもう駄目だ駄目だと言っている。
倒れた父よりこちらの方が遥かに重症。民生委員の方が心配してやって来る。でも動けるから要支援の認定も無し。一人にできないから入れ歯作ってやるから茨城に来いと言っても拒否。父に会わせに連れて行っても下を向いたまま。こちらも段々腹が立ってくる。
だがこちらがあれやこれやをやっているうちに、お盆の終わりに表情に変化が見られた。8月初めから妻を大分へやっていたが、ロもろくろくきかなかった母が自分から料理を作ったのである。妻は奇跡の様だと驚いていた。「馬鹿野郎何で早く言わないのだ」と怒って、初盆の挨拶に夕刻に忙しく動き回る息子の姿を見て、済まないと私に謝ったその時から、変化の兆しが起きてきた。
医者から処方された薬をみて、これは飲まなくてよいから、こちらは飲めと指示し、「気」を高めそうな薬だけは目の前で飲ませた。経口補水液もむりやり飲ませた。あれから3週間、ヘルパーを最近は受け入れて来てまだ生きている。電話すると「全然良くなってない」と答えるぐらいまともになって来た。
Dr. ダイヤモンドの言う何かである「氣」を父は持っている。 しかし、どの角度から眺めても母には「氣」が失せていた。実は6年前にも母はうつ状態になったことがある。そのときはぐるぐる家を動き回っていた。父は薬で治るものかと言ってとうとう精神科や心療内科には連れて行かなかった。父の妹が心臓麻痺で急死し、その辺りからおかしくなった。父が死んだらどうしようと不安か
らうつが始まった気配を感じた。 日頃から、私の職業柄、父が死んでも俺は帰られないからと言っていたからである。その話を片山先生にしたら、急に泣き出して「お母さんにそんなことを言うな。可哀想に。お前はそんなこと言う奴じゃないじゃ
ないか。」と言われた。その日に初めて沖先生と会った日ではなかったかと思う。「だから、母に心配するな、父の葬式は俺がやると言って来ました。」というと「それがいい。それがいい。」と早くお母さんを安心させろと言ってくれた。だから母を見ていると、その時の泣いた片山先生の様子が想い出されるのである。同じく何度も帰省している独身の妹から「面倒になったら親の首絞めて私はさっさとおさらばする」とのメールが来た。看護する方も段々狂ってくる。白分か死んだら献体して死後片付けて貰うように手続きもしてあると言う。そこで「誰がお前に親の面倒をみれと言った。死ぬなら一人で勝手に死んで行け。俺もそうするから」と応えてやった。でも母は再び回復に向かう気がする。
それは片山先生のあの時の言葉が「他力」となって、私を動かしているように思えるからである。そして父にも妹にも「他力」が働き、それが母の「氣」を高めてくれているように思えるからである。
90歳にならないと、90歳の体のことは分からないと片山先生は語っていたが、今まで知らなかった人間の一面を知るに従い、Drダイヤモンドのいうように「他力」で歯科医としての役割が導かれて行くような気がする。
平成21年9月6日New YorkでJohn Diamond 先生にお目にかかって・・・
2009 vol.4
東京世田谷区 森 克栄
Diamond 先生が、私にOrlando(F1)で催される AAF の meeting の帰途、New York へ立寄る予定を話したら、紙切れに是非電話をと書込んだのを渡された。
5月18日(月)、朝電話をして秘書にメッセージを残しておいたらすぐ返事を頂き当日の4時に立寄るとのこと、ホテルのロビーにてお目にかかることが出来ました。
今年10月31日とその翌日に豪州の歯科医と再来日されるとか、その時、彼の講義を何とか成功させるために微力乍らお手伝いを申し出ておきましたら、すぐ頼むとの決断の早業に途惑いました。
それから私共の共通の Calligraphy に話題が移り、藤村や一茶に関する質問を受答えしている間に御夫人が登場され我々に合流し記念撮影後もう少し話をしてから惜別。
ほんの30分余りでしたがお忙しい時間をさいて下さった事を感謝しています。
(2009.5.31記)Dr.&Mrs. Diamondと森克栄 2009年5月18日 NYにて
Wholistic Dentistry Joint Case Seminar レポート
2010 vol.5 より
恒志会理事・歯科医師 菊池 哲
Wholistic Dentistry Joint Case Seminarが2010月4月10日(士)・11日(日)に東京都千代田区の日本歯科大学生命歯学部本館3階132講堂にてNPO恒志会主催で行われました。ホリステック・デンティストリーとは何か? 診断哲学から治療技術の紹介をしたいということで企画されました。
講師はシドニー大学医学部卒、医学博士・精神科医のDr.John Diamond,M.Dとムンバイ大学部医学部卒、歯学博士・ホリスティック・デンティストのDr.Joseph Da Cruz, D.D.Sです。
Dr.John Diamond (http://www.drjohndiamond.com) は米国を代表する「ホリスティック・ヒーラー」としてニューヨークを基地に診療・教育・講演活動を精力的に展開しており、世界各地で行われた講演はすでに1000回をこえる。著書に“Your Body Doesn’t Lie” . “The Healer : Heart and Hearth” など多数ある。
Dr.Joseph Da Cruz (http://www.wholisticdentistry.com.au/index.html) は不正咬合、顎関節症、睡眠時呼吸障害などをSOMA(Splint Orthodontic,Myofunctional Dental Appliance=筋機能型歯科矯正スプリント)を用いた非侵襲性の治療に取り組む。 SOMAはDr.ダイヤモンドとの共同開発したとのこと。
Dr.Joseph Da Cruzのホームページをみると口腔の健康を保つことによって全身の健康を実現すると書かれています。このホリスティック・デンティストリーについて実際の難症例のデモンストレーションを通して解説していただきたいと企画されました。
実際に昨年末に私どものスタッフがオーストラリアまで行って、ホリスティック・デンティストリーの治療を受けてきました。現在も私が治療を継続中ですが、不思議なことが起こりました。月経困難症が全く消えてしまったのです。何か起こったのでしょうか。
その治療哲学から治療技術に至るまでを紹介していただきたいと企画されました。
私どもが一番注目していた月経困難症の消失に関しては残念ながら私には理解できませんでした。これはたぶん講師にとって全く当たり前のことなので特に説明を必要としなかったことと、私の東洋医学についての無知があり理解できなかったのではないかと反省しています。
しかし矯正専門医としてはいろいろと理解できるポイントが多数ありました。この装置で睡眠呼吸障害が治療できると説明していましたが、世界の睡眠歯科の常識からいえばこの装置ではそこそこの効果しか得られないのではないかと思われます。
かつて片山先生が ”菊池君、この年にならないと分からないことがいっぱいあるよ” と私に言っていましたが、私にとってこの年になって人間について分からないことが増えました。
大変に楽しみでもあります。これからどのように勉強してゆくか・・・。
さて何から始めましょうか、皆さんと一緒にボチボチと始めたいと思いますので “この指とまれ”。
懇親会は大変楽しい時を過ごしました。皆さん笑顔です。懇親会の様子
片山恒夫先生とW.A.Price先生
〜 Dental lnfections 翻訳に携わって 〜
理事・歯科医師 福岡 雅
1.はじめに
私は、片山恒夫先生のセミナーを1回(第23回1993 <平成5> 年)受講しただけの人間です。そもそも名のある歯科医師ではなく、今やコンビニ以上に多いといわれるその辺の一開業歯科医に過ぎません。
仕事はあくまで保険診療が主体です。
そんな私が現在NPO法人恒志会の末席理事を拝命していますが、これにはW.A.Price : “Dental Infections vol.2”の翻訳に僅かばかり関わらせて頂いたことが大きいと思いますので、セミナー受講からここに至るまでの「ご縁」について書かせて頂きます。
2.片山セミナー
1992<平成4>年に開業した私に片山セミナー受講を勧めて下さったのは同じ地区でご開業の先輩・野々山郁先生でした。開業一年で決して順調とはいえなかった時期、2回の土日を潰してのセミナー参加は経済的にも大変でした。 しかし、「薫陶を受ける」とはこのことをいうのでしょうか、
この「たった一回」がその後の自分の進む方向を決めたのです。その教えの多くを守れてはいないとしても、です。
私が受けた歯学教育では、ただでさえ小さな口腔や歯をさらに細分化された専門分野ごとに、疾患の存在を前提として多くは形から入った「誰彼の分類」があり、それに対する治療法の要件や術式に終始していたと思います。
しかし、片山先生は「原因」に対する考察とその軽減除去を常に念頭に置かれ、その医療を構築されていました。さらに、「原因」を口腔不潔=歯垢・細菌(現在ではbiofilmといわれる)に限局せず、「食をはじめとする生活習慣の乱れとして歯科疾患が発現する」とも仰せられ、そのスケールの大きさに圧倒されたのでした。 W.A.Price先生の“Nutrition and Physical Degeneration”(片山先生翻訳『食生活と身体の退化』)の存在もこの時初めて知りました。主な歯科疾患はう蝕、歯周病、不正咬合ですが前2者は感染症でもあります。従って細菌をターゲットとした取り組み方がでてくるのは当然ですが、これでは不正咬合には手も足も出ません。 Price-Katayama 路線は今の私の診療体系〜う蝕も歯周病も不正咬合も一元的に予防する〜の大黒柱になっています。 これはセミナー受講から何年も経った後に感ずる真の価値です。
セミナー受講時、特に印象深かったのは次の二つで、少なくともこれは習慣として定着しました。
①「先ず、写真を撮りなさい。]・・・この重要性についてはもう説明は要らないと思います。下手でもいいから先ず一枚撮って見る。「下手だったなあ。」という記録が残るだけでも進歩です。昨年、思いがけず国際学会や海外のシンポジウムでも発表する場を与えられましたが、その第一歩は写真を撮ることです。
②「はえたての歯が尖っていて柔らかいのは何故か、皆さん解りますか?」・・・個々の事実は知っていてもその連関、相互関連についてはそれまで考えたこともありませんでした。「形態は機能を表し、機能は形態を表す」とは解剖学で習った格言ですが、「解剖と生理」「形態と機能」は、言語学に置き換えれば「形態と意味」ということであり、高名なドイツ語学者関口存男の言葉を借りれば、「形が意味を有するにあらず、意味が形を取捨するなり」、即ち意味=機能が上位に立つのです。
片山先生の説明を聞いているうちに「はえたての歯の講が深いのは何故か」、急に閃くものがあり、「虫歯の好発部位だから」という理由だけで歯の溝を塞ぐの(=pit & fissure sealant)は次の日からやめました。 これが小生の予防の始まりです。のべつ幕なしにシーラントをするのは「胃癌で早死にの家系だから」と、子供のうちに「予防的に胃を切り取る(!?)」、それくらいナンセンスなことだと思うからです。小高裂溝の意味=機能は何か、「片山流に(片山先生だったらどうお考えになられるだろうかと)」自問自答することが「気付き」であり、今の診療への「築き」です。 自然に無駄はなく、本当に治すべきは何か、ここまで読まれた方はもうお分かりでしょう。
そこで一句 「シーラント 歯牙の生理を 知〜らんと」
「数年したらまた来よう」と思って箱根を後にしましたが、その後セミナーは30回で終了してしまい、これが片山先生との最初で最後の対面となりました。 しかし宿泊のホテル(箱根アカデミーハウス)の部屋で沖先生の後輩と同室になったことが、その後に生きてくるのです。
3.片山ビデオセミナー
2004<平成16>年ビデ才セミナーの案内が届いた時、「たとえビデオでも久しぶりに先生の講演が聞ける」という思いと「このセミナーが参加者少数で不調に終わったらもう次回はないかもしれない・・・」という不純な、いや寧ろある意味純粋な気持ちで早速申し込んだのでした。
映像ではあっても、片山先生の教えには新たな発見があり、良書と同じで、一昔前の自分とはまた違った感動を覚えました。 これが片山哲学の本領だろうと感じました。少しも古くなっていないどころか、20年前から現代を見通しておられるようでした。
ビデオセミナーでは、W.A.Priceのもう一つの、しかもより大きな業績である“Dental Infections”(全1,174頁)の翻訳という壮大な事業が、片山先生の遣り残した仕事として、計画されていることが知らされました。翻訳といえば故郷美濃加茂の大先達坪内逍遥先生の言われるように「原文の直訳から、翻訳された言語として自然な文章に直し」さらには「元の翻訳される側の言語のfravourを伝えることに重点を置くか、翻訳とわからないほどに翻訳された側の言語らしい文章にするか」といった問題がでてきます。語学では所詮は素人の歯科医師には英文解釈の域を出ることは難しそうに思えました。たかが英文解釈といっても、山崎貞や吉川美夫のように英学史に名を残すような和訳例は立派な翻訳といえますし、そもそも正しく解釈する力が自分にあるのか、自信は全くありませんでした。たとえ下訳ではあっても翻訳となると、どんな難文でも巻末を見れば訳例や正解が載っている「英文解釈」とはこの点が、最も切実に達います。蘭学事始のような「わからない」という苦悶をあえてするのには勇気が要りました。
受講者の多くがページを決めて分担していかれるので私は躊躇逡巡した挙句に、最後の章General Summaryを選びました。紅白歌合戦ならトリみたいで格好良いですが、私は義務教育(大学卒業)だけですぐに働き出したので、歯科における専門分野はなく、研究実験にも疎いので、皆さんが避けていたところを偶々消去法で選んだというわけです。
4.何とか和訳して
総論も各論も知らないで結論を訳したので、正しく理解できたかどうか怪しいところもありましたが「ここまでは何とか解かったが、ここからが良く解らない」という線引きだけは明確にすることを心がけました。「解る」は「分かる」とも書きますが「(共通の)理解を分かつ」とも「理解(できる所とできない所)の境界を分かつ」とも解釈できます。言葉の意味を味わいながら先へ進むのは苦も楽もありましたが次第に楽しみが大きくなって行きました。
Price先生の言葉も、素晴らしいものがありました。そのいくつかを掻い摘んでみます。
・・・when we have come to understand these, we will understand life itself,for disturbed life is but slightly different fiom the normal.(これら<本書で取り上げた口腔感染に起因する様々な疾患>を理解するに至った時、私達は生命そのものを理解することになるだろう。何故なら生命活動が障害されたとはいっても、それは正常像からほんの僅かの変異に過ぎないからである。)様々な疾患が存在するのは・・・how extremely involved the problems of defense and susceptibility are (生体の防御(免疫)や感受性(もともと弱い部分)の問題がどの程度までひどく犯されたか)と結論しています。
口腔感染の主な原因菌はStreptoccous(pl. Streptococci)ですが、これは若いうちから始まっていることです。元気なうちは免疫力で何も問題は起きないのですが、・・・these diseased states develop in the organs and tissues whose defense has been
lowered either by trauma, starvation, physical and mental overload, or by heredity. (これらの病的状態は外傷、飢餓、身体および精神の過重負担(過労)、あるいは遺伝によって、その防御が低下している器官や組織で発生する)と疾患の発生について説明しています。何処に病変が初発するかについて、・・・in case there has been no physical(※) force to determine what tissue will break first(どの組織が殼初にやられるかを決定するような物理的な(下線は筆者。※physical には主に「身体の、肉体の」「物質の」「物理学の」異なる重要な意味があり、low「法則」「法律」と同じく、かなり紛らわしいです。英語は日本語と比べて特に論理的な言語とはいえないと思います。)力が存在していなかった場合)の条件付で、・・・heredity answers to the question (遺伝が回答になる)としています。遺伝的条件によって発現する疾患も異なるというわけです。・・・hence we have in one family the kidney breaking first, in another the heart, in another the joints, etc. : and we call it “Heart disease running in the family”(従って
ある家族では先ず腎臓がやられ、別の家族では心臓が、また別の家では関節が、等々という具合に。これを一般には「あの家系は心臓病の血統だ」と言うのである。)勿論遺伝だけでなく「食をはじめとする生活習慣の共有」もあると思います。
たかが虫歯でも、Dental caries is primarily a local expression of a systemic condition in combination with abnormal local physical condition.と局所だけの問題ではなく、全身との関わりで捉えるのです。
「幸福な家庭は一様に幸福であるが、不幸な家庭は様々に不幸である。」とはトルストイの『アンナカレーニナ』の有名な書き出しですが、「健康は一様、病気は多様」「生理は一様、病理は多様」と一般化して考えると、「幸福、健康、生理」を支える様々な仕組みが十全に機能しているうちは問題ないのですが、このなかの何処かが限度を超えて侵されると、様々な問題が生じてくる、とい
うことになるうかと思います。疾患を理解するうえで極めて分かり易い説明がなされていると感じました。
5.来世主義者
こんなすばらしい研究、発見をしたW.A.Price先生、ノーベル賞を貰ってもおかしくない業績だと思うのですが、沖先生からお聞きしたところによれば、この本を書いたばかりに学界はじめ公職を追放されてしまったそうです。 これは案外どの世界でも良くあることで、ガリレオ然り、吉田松陰また然りです。中学高校の大先輩で哲学者の梅原猛先生は、「学界の常識を否定するような革命
的な学説を発表した学者は世に認められないことが多い。 しかし彼らはそのようなことを全く気にせず、ひたすら真理を追究したのである。」(中日新聞 平成17年3月14日)として、肯定的に「来世主義者」と捕らえています。
しかし、この「追放」によって私たちは「歴史の皮肉」という言葉ぴったりに“Nutntion and Physical Degeneration” 『食生活と身体の退化』を読むことが出来るのです。
ルソーの『エミール』Rousseau’s Emile, ou l'education の書き出しは、(仏)Tout est bien sortant des mains de l'Auteur des choses,tout dégénère entre les mains de l'homme.(英)Everything is good as it leaves the hands of the author of things,everything degenerates in the hands of man. (仏英とも下線は筆者)なので、この Degeneration は環境に適応しての変化(進化・退化)ではなく明白に「悪化」だと言って良いと思います。(因みに、ルソーも『エミール』を書いてパリ大学神学部から断罪され、本が発刊禁止となっただけでなく、本人に逮捕状が出たためスイスヘ亡命したそうです。)
6.現代的問題
最近になって歯周病はじめ歯科疾患が、全身疾患・メタボリックシンドロームに深く関わっていると声高に叫ばれるようになりましたが、Price先生のDental Infectionsはもう80年前にこのことを実証しているのです。あまりに早く研究し過ぎたということでしょうか。その結果歯医者はロの中だけ、えてして歯だけ弄っていれば良くなったのでしょうか。多くの歯科医師は医師に対して「全身のことが良くわからない」と劣等感を持っていると思います。しかし現代の医学の研究・教育・臨床の現場も臓器別・疾患別の「縦割り行政」で、その意味ではかなり歯科的でもあるようです。 しかも、高齢者の在宅・口腔ケアの現場で特に明らかになったように、医療や介護の現場からこれほど感染源になっている口腔がごっそり抜け落ちているのです。最も近い所を診る耳鼻咽喉科医でも歯など全く診ないでしょう。そういう状況で疾患を微に入り細に入り研究・分析しても、手法の進歩以外に得るところは少ないのではないでしょうか。
Price先生のNutrition・・・はもう今では再現できない研究業績ですが、人間は本来いかにあるべきかと言う哲学的テーマをも現代に問いかけているようです。 しかも白人文明の限界を明確に看破しています。シュペングラーの『西洋の没落』にも似たEchoがあります。今尚日本の指導的立場にある少なくない人が「欧米では、・・・」を枕詞にしていますが、如何なものでしょうか。
現在健康日本21とかメタボリックシンドロームとか様々に言われていますが「食育」の提唱者である石塚左玄先生のように、民族として何を食べるのかという考察抜きには、国民の健康は、延いては国家の安全も、望むべくもないと感じます。
最後に、disturbed life is but slightly different from the normal. という Price 先生の言葉を繰り返して終わりたいと思います。別の読みかたをすれば、「正常と異常の差異は 極僅か」ということであり、「きちんと養生・治療すれば真の治療も予防も不可能ではない」ということであり、このことを実証しているのが片山恒夫先生だと思うのです。
力量不足で多々至らないことがあると思いますが、小生としてはいろいろ勉強になることが多かったと思います。
有難うございました。
2008 Vol.3 より
現代社会の悩みは解決できる
書評 「食生活と身体の退化」
日本歯科大学名誉教授 丸茂研修会主宰 丸茂 義二
現代社会は数多くの問題を抱えている。現代医療も予防医学が十分とは言えない。歯列不正や精神疾患などが予防できないことは,もはや通念と言える。 時空を越えた理論が存在するだろうか 。 その解答はプライス博士の本書にあると言わざるを得ない。
スイスには交通不便で外界との交通手段を殆ど持たない村がいくつもある。その一つのローチェンタール峡谷の住民は2000人からなる独自の世界を作っている。その地域には医者も歯科医もいない。 そして、警察や刑務所もない。そこにはそういったものが必 要とされていないからだ 。 病気も犯罪者もいない原因は 、交通不便な峡谷という環境であった 。
そこで生きるには、 峡谷で採れる食品のみを食べ、峡谷を往来するための交通手段は自分の足であった。 ここには、他の地域で採れる食物だけでなく、文明の利器と言われる乗り物がないことが重要な点であった。 ローチェンタールに限らず、伝統文化と伝統的食事を守っている他の村も共通して同じであった。
虫歯が異常に少ないだけではなく、歯列の綺麗さと顎の発育は素晴らしいものがあった。それらの村で食べられているものは、伝統食であり、ライ麦のパンやチーズなどの乳製品であって、決して硬いものがない。近来日本で言われていることで、『顎の発育が悪いのは軟らかいものばかり食べているからだ』という、推測で成り立っている俗説を十分に否定できるものであった。現代の歯科医や歯科衛生士が患者や患者の親に対して『 硬いものを食べた方が良いですよ』と勧める根拠など、ここには一つも存在していない。
病気から逃れる共通なものは 、 各地域における伝統的な生活様式と伝統的な食品である 。 物事の本質は何かを十分に理解して比較しないと期待した結果に到達できない。スイスのこれらの地域で齲蝕に羅患してない子供たちは100%ミルクを飲んでいるが、これはミルクが良いのではなく、その地域における伝統食が良いという意味である。この原則は、次に示す他の地域における健康食の基本である。
次はスコットランド北部のアウターへブリーズ諸島である 。 諸島と言っても、殆ど孤立状態でコミュニケーションは全く取れないような環境である。彼らが口にするのはカラス麦を加工した食品と伊勢エビと平目と非常に限られた野菜である。しかし、どの島の住民も目を見張る程の体格と虫歯の少なさは共通していた。
ところが、中には近代化した島があって、そこでは齲蝕や欠損が多発し、結核の流行があった。アウターへブリーズ諸島においては、健康の鍵はスイスにおける乳製品等ではなくカラス麦などであって、まさに身土不二である。
イヌイットにおいては燻製の鮭やアザラシの脂・アザラシなど動物の内臓が伝統食であった。北米先住民ではオオジカの肉や腎臓・副腎などである。この地域において先住民と文明人の両方を診ているローミッグ博士は、近代食に侵されて内臓系の病気が治らない先住民を、あえて伝統的な生活環境や食品に戻らせる処置を行うことによってのみ治癒を得ることができたと述べている。
ここまで述べてきた民族だけではなく、メラネシア人・ポリネシア人・アフリカ諸種族・オーストラリア先住民等々、その近代食と近代文明に侵され健康を失った民族の例は枚挙にいとまがない。プライス博士は、調査研究したあらゆる民族は、全てと言って良いほど近代食になると肉体面も精神も道徳面までも退化していることを報告している。プライス博士は、その謎を解いている。健康のためには、大自然の法則に従って生活することである。伝統的な食事や生活環境は民族や地域によってそれぞれ大きく異なっているものの、共通することは、病気に対する抵抗性が高く、歯列や顔面に奇形が見られないことである。理想の食品は、ミルクであったり鮭の燻製だったり、カラス麦・動物の内臓・鯨皮・魚貝類・甘藷・豆類・蟻・果実・海草類・ある季節のバター等々、それぞれの地域にそれぞれの組合せが伝統的に決まったものであった。
現代栄養学は、食品の中に足りない要素があれば補うことが目的であった。しかしながら現代栄養学に欠けているものは、足りない栄養素のみを補うことであったり、栄養素自体を吸収出来ない身体に言及してないことだ。博士は、リンの一日の必要量は、人参から摂るなら、毎日4.3kgを食べなくてはならないが、海産物を摂っているとリンは通常の食事量で十分に摂ることが出来るので、食べ物は組合せが大切であると述べている。
それは民族や地域によって伝統的経験的に異なっているので、現代科学でも理想の食事を民族や地域を越えて一つの形にすることができない。勿論食事内容だけでなく、生活のあり方についても同様である。一つの民族における 正しい生活様式は、他の民族では正しいとは言えない。そこに文化は蹂躙されてはならないという基本がある。商業主義とは現地の人や環境を食事や生活様式を伝統的なものを否定し蹂躙していることである。
本書は全ての医療人だけではなく、子育てや教育に関わる全ての人々と政治家・官僚たちに知って欲しいことが書いてある。スタッフ教育に悩んでいる先生は、本書を読んで貰うだけで十分であろう。疾病は医療によって治せるということで看過することは出来ない。農業では連作障害は常識であるが、人間における連作障害を考えたことがあるだろうか。肥沃な土壌の意味を考えてみよう。肥沃な母体と父親からは健康な子供が生まれるという法則は時代を超えて真実である。大自然に従うという文言の意味を深く考えて、自分の立場では何をすべきか深く自覚しなくてはならない。
『伝統的事実』よりも『科学的根拠(エビデンス)』を信じる社会構造を手にいれてしまった現代では、個人のレベルを越えてプライス博士の言葉が重くのしかかってくる。エビデンスに踊る現代医学に、これ以上の警鐘はない。目の前のエビデンスに踊らされて、プライス博士の言う『取り返しがつかない事態になってから改めようとしても遅すぎる』のである。
書物を手にした時に大切なことがある。それは疑いの目で見ることだ。しかし疑っても事実として目に飛び込んでくる現象は、70年前でも現代でも同様に存在することを認めざるを得ないであろう。勿論70年前の書物であるから、当時知られていなかったことについては信憑性のない記述もあろう。しかし、他により納得の出来る答えが見つかるまでは本書は手許から離すことができない。
Swiss
ローチェン タール峡谷
両親も子供も適切な栄養をとっている場合、顔や歯列弓の形状はこのようなに正常である。
よく発達した鼻孔にも注目してほしい。 スイスの中でも近代化の進んだ地域では虫歯は途方もなく進む。
右上の少女が16歳で、右の子はそれより年下である。
二人は精白パンと甘いものをたっぷり食べている。
下の二人は歯が叢生(乱杭菌)状態にあって歯列弓の形がひどく悪い。
この歯列不正は遺伝によるものではない。
ベルギー領コンゴにいるこの西部ナイル部族の人々を見れば自然の摂理にかなった食事が何をもたらすかがはっきり分かる。
歯列弓の幅の大きさとよく整った歯に注意してほしい。
頭部同様、身体も立派である、さらに、土地の食物を摂っているうちは虫歯もごくわずかしか見られない。
近代の商業がもたらした食物を取り入れたアフリカのどの地域でも例外でなく、虫歯が猛威をふるっており、写真に見られるように非常に多数の歯がだめになり、ひどい痛みに悩まされることになった。
長年の夢「食生活と身体の退化」
ソフトカバー版発行について2010 vo.5
恒志会理事 山田 勝巳
恒志会にとってウェストン・プライス博士の「食生活と身体の退化」は、口腔医学や健康を考える上での根幹をなしているといっても過言ではありません。これまでハードカバー版で、その販価も一万円近く、一般の人たちにも読んでもらいたいという願いはあってもなかなか高嶺の花という感は拭えませんでした。
食べ物と健康、そして食べ物の入り口である歯の疾患と全身の疾患の関わり、心の障害への関わりなど、何をどのように食べるか、それによって心身がどうなるのかを豊富な写真や多様な国や人種で実例を示した貴重な文献であり、後世に残し伝え、人間本来の医療と健康を考える上での基盤となるべきものといえます。
これを少しでも多くの方に読んで頂けるようにという気持ちは、今回の総会参加理事の総意でした。
その第一弾としてソフトカバー版を、人手しやすい価格の2,000円前後(*)で出そうということに決定いたしました。ソフトカバー版では、新たに以下の三章が追加されています。
第29章ウェストン・プライス博士の教材写真集
プライス博士が講演で用いたスライド集からこれまでの章では見られなかった貴重な写真の数々。
第30章 食べ物の酸とアルカリ・バランス
本書発行当時齲蝕防止にはアルカリ食が望ましいという社会風潮に対し、世界18カ国多民族の食べ物と虫歯の実地調査を行ったデータを基にプライス博士がより本質的な見解を述べる。
第31章交換書簡集
愛情溢れる健康への気遣いを表した甥と姪に宛てた手紙や、アボリジニーの健康増進のための食事指導や調査のための書簡のやり取り、そして小麦が歯や体の健康によくないという投書に対し、実地調査した内容とデータを示し、精製過程で失われる栄養素に触れて誤りを指摘する手紙など、今も変らぬ食べ物議論に対する本質を認めた貴重な書簡集。
発行は、八月末を目差しています。予約を歓迎します。希望者は事務局までお申し越し下さい。
2,000円前後(*) : 2017年現在 定価4,000円です 事務局
Writer profiles
関 正一郎
恒志会常任理事・歯科医師
ジョージ・E・マイニー
山口 トキ子
恒志会理事・医師
呉 宏明
恒志会副理事長・大学教授
山田 勝巳
恒志会理事・自然農園主
千葉県富里市 山田自然農園を経営
「旬の会」主催
「健康の輪」ー病気知らずのフンザの食と農ーを翻訳出版
緒方 守
NPO恒志会理事・歯科医師
福岡 雅
恒志会理事・歯科医師
市来 英雄
医療法人 市来歯科 理事長
丸茂 義二
日本歯科大学名誉教授
丸茂研修会主宰
菊池 哲
恒志会理事・歯科医師
森 克栄
森歯科医院院長
1958年 東京医科歯科大学歯学部卒業
1958~60年 渡米研鑽(1年目は New York, NYのグゲンハイム・デンタルクリニックで小児歯科臨床を、2年目はPhiladelphia, PAのアルバート・アインシュタイン・メディカルセンターにてDental InternとしてWalter Cohen教授にPeriodonticsを、IB Bender教授にEndodonticsを開眼させられる)
1961~69年 母校口腔病理学教室在籍「歯周病の初期病理発生に関する研究」に従事
1962年 原田良種先生に師事
1965年 米国歯内療法学会(AAE)・会員 ‘90~終身会員
1969~2005年 現在地(東京都世田谷区)に開業
主な著書Dental Mook 現代の臨床3.「根管治療とその周辺」(編著)(医歯薬出版),
International Extrusion-意図的挺出の現在―(編著)(グノーシス出版), Dental Mook 現代の臨床8.「歯周治療」(共編著)(医歯薬出版),他
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